「黒の舞師 壱ノ巻」 試し読み2/2
- カテゴリ:自作小説
- 2018/07/10 20:44:15
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死んだ人は家に宿る氏神になって、家族を守ってくれるという。
ならば娘の母親は家のどこかにいるはずなのに、まったく影もかたちもない。氏神さまを祀る棚にはそんなそぶりはまったくないし、どこの部屋にも庭にも畑にも、出てこない。
母親のいまわのきわの言葉は……
『心配しないで。氏神さまになって、見守ってるからね……』だったのに。
(あたしはにぶい。めがみえない……だから、かあさんがわかんないのかな?)
母親のことばを、娘はどうしても信じたかった。
(かあさんはこえやおとがだせないだけで、すぐそばにいるのかも。めがみえるひとには、みえるのかも……)
そう思った娘は考えた。
もしあの不思議な気配をおろせたら。感覚がするどくなるあの空間を作りだせたら。
(みえないものをかんじられる? においとか、くうきとかで……かあさんを、かんじられる? かあさんに、あえる? きっとそうだ。きっと!)
それから毎日、娘は熱心に糸つむぎ。
ふわふわの綿で糸を作っては、糸をぴんと張って、からから鳴る糸車を伴奏にして、母のように歌ってみたり。くるくる踊ってみたり。
でもあの不思議な気配はついぞ、降りてこないのだった。
(どうやったら、あれができるの? はやくかあさんにあいたいよ……)
娘はあきらめなかった。
自分の歌声ではへたっぴでまずいのかも。そう思った娘は、きれいな音を探すようになった。
ぽくぽく、木の椀。カンカン、金だらい。ぴーひょろろの、村祭りの笛囃子。りんりん、おやしろのお払い鈴。
ぴんと綿糸を張って、音にさらしてみる。どんなにやっても、あの気配は降りてこない。けれど糸はわずかに、震える。耳を澄まして、娘はそのわななきを聴く。なにか鳴っている……
それを聴きとると。
(もうすこしだ。きっともうすこしで、できるよ!)
娘はうれしくなって、糸に聴かせたその音を、自分もまといたくなるのだった。
「また回ってるの? クナ」
「しっぽをおっかける犬じゃあるまいし」
「ほっておけよ。あいつは頭のネジがとんでるんだ」
家族みんなが眉をひそめてあきれかえるも。
(かあさん。かあさん。きれいなおとよ)
糸をもつ娘は、音をまとってくるくる舞うのだった。
まるで、羽衣をまとう舞姫のように。
第一話 了
第二話へ続く
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~登場人物~
クナ
主人公。山奥育ちの「田舎娘」。目が見えません。
感覚が鋭いので音と匂いで周囲の物を判断します。
そのため本編では、クナ視点のところは音と匂いだけの描写をしています。
字を知らず大変幼いので、クナの思考は始めはひらがなです。
成長していくにつれて、漢字混じりの思考や台詞を発するようになります。
黒の魔将トリ
とある化け物を駆使して戦う一騎当千の武将。
あるいきさつでクナを生け贄としてもらいますが、化け物に喰わせず、黒の塔に連れて帰ります。その真意は……
月の大神官トウイ
月神殿の大神官。宿敵である太陽神殿の神官族にはめられ、娘を生け贄にさしだす羽目に。
自分の娘を救うため、クナを買い取り生け贄に仕立てます。
すっごくステキ!
イラストも描いたのね。
ホントためいきがでるほど素敵な本。
ゆっくり大事に読ませていただくねー!!!
お盆休みの楽しみができたわ!!!
感覚がひとつスポイルされてるのでその分
クナは匂いとか音とかにすごい力を発揮します。
トリと一体どうなるのか、もにゅもにゅしてくださったらうれしいです!
色や匂いが頭の中に広がるようです。
トリがクナをどうするのかも早く知りたーーーい!!!
ご高覧ありがとうございます。
恋愛色濃い目のハイファンタジーです^^
クナは巫女の技と舞の技をどんどん開花させていきます。
女の子主人公のジュブナイル~。
冒頭の不思議な音の降りてくるシーンがいいですね
試し読み企画楽しいな〜