自作7月 天の河 「門出」1/2
- カテゴリ:自作小説
- 2018/07/31 23:36:56
マブシイ……
ココハ、ドコ?
マッシロ
ヌクヌク
キラキラ
マッシロ
ヌクヌク
キラキラ……
ここはなに?
なんてふわふわ……雲の上にいるようね。
どうしてこんなところにいるのかしら。
きゃっ! 雲が分厚い。うまってしまったわ。
なんてあたたかい……
白くて。輝いていて。ここはなんだか、ものすごくなつかしいところね。
声がきこえるわ。
とても遠くの、下の方から誰かが叫んでいる。でも、よく聞こえない。
ここはあたたかすぎて、とけてしまいそう。
ほろほろとろけて、なくなっていくような気がする。
ほろほろ
ほろほろ……
白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしい……
ほんのりあたたかい光が雲を照らしている。
風が吹き抜けていく。
生暖かい風。ああ、雲が割れた――
雲の合間に、誰かいる……
なんてきれいな虹色の輝き。
もしかして……|母様《・・》?
私をかわいがってくれた偉大な神獣――優しき牙の王は、最期まで気高かった。
『黄金の娘よ。我は天河へ昇る。我を船に乗せて送り出せ。
これからはおまえが、兄弟たちを導くのだ』
リュカオーン母様、ごめんなさい。
私はたった五百年しか牙王の座にいられなかった。
あなたはその三倍もの年月、兄弟たちを統べ、守り、育んだというのに。
それどころか黒き森連なる大国を、あまたの神獣たちから守りぬいたというのに。
時が経つにつれ兄弟たちは次々寿命で動けなくなり、我らが身を寄せる国は森の中に沈んでしまった。
私が率いていた狼たちは、ほんのわずか。なんとか数回、戦のお役に立てた程度。偉大な母様に比べれば、とても恥ずかしくて堂々と言えぬぐらいの生き様だった。
でも私は、後悔していない。
一番守りたいものを守ったから。兄弟と同じぐらい大事な者の命を、守れたから。
だから母様、どうかこうしておそばに戻ることをお許しくださ……
――「いらっしゃいませー!」
えっ?
母様じゃ……ない?!
虹色だけれど、人の形をしているわね。
頭に猫耳? 短いスカートにひらひらエプロン装着?
ね、ネコ……うう、一番いやなものが現われるなんて、ここはほんとうに天上なの?
くいくいと招き手をして、ひどく怪しいわ。
「ご来店ありがとうございまーす。当店へお越しのお客様、今日は大変なラッキーデイですよー! 開店五十周年の記念日でーす!」
は? お店?! 開店?! 五十……?!
とするとこの両手組んでサッとお辞儀をしたこの猫耳娘は……店員?!
って何のお店の?!
「はーい♪ 天上の雲の屋台へ、ウェルカムですう!」
仰天しているうちに、いきなり白い雲が割れたけれど。そこに何か、建物のようなものがあるわね。
たしかにこれはまごうことなくお店だわ。
渦を巻いている白い大きな屋根。もこもこの柱。ふわふわのカウンターと椅子。みんな白い雲でできているのね。
雲の椅子はどれだけあるの? ずいぶんたくさん並んでいるわ。いろんな生き物が座っている……
あれは我が眷属? 飼い慣らされている子のようだけど。そっちのは猫ね。ネズミ、牛、虎、ウサギ、竜ヘビ、馬、羊、サル、鳥……
むろん人間も。なんかへんな魔物もごっそり。
雲のお皿に蜘蛛のジョッキ。みんなが食べているものはなに?
「さあさあ、そこのお席にどうぞ。今日は開店記念日ですから、きっとすごくいいことありますよぉ。オーダーは店主に直接おねがいしまーす」
虹色の猫耳娘にすすめられて、もこもこなカウンター席の雲の椅子に座ったはよいけれど。
店主というのは……
「やあいらっしゃい。お美しい方じゃのう。さて、何にするかね?」
黒い衣をまとった白い髭のおじいさん?
もこもこの雲を両手に持ってニコニコしているけれど、もしかしてここで出されるのは……雲なの?
「好きなものを何でも作ってやるぞい」
「お客さま、おすすめは雲のワタアメですよ」
ああ、猫耳娘が親切にまとわりついてくるわ。猫は苦手なのに。
「夏季限定で今年はキャラメルフレーバーシリーズを展開厨でーすっ。練乳キャラメルは甘党におすすめ。ビターキャラメルは大人のお味。あ、タバコとお酒はハタチになってから。お客さま、享年おいくつでした?」
「……千五百十五歳だったかしら」
「わあ! ご容姿からは想像もできないぐらいのご長寿だったんですね! それじゃあピンクの雲カクテルはどうです? おしゃれで大人のお味で最高ですう」
「これこれ、まーた自分の好物をおしつけるでない。ほれ猫耳ちゃん、お客さんがまたきたぞ。出迎えしてこんか」
「ああんもう。店長あたしばっかりこきつかう~っ。ねえねえ兄弟子さまー、忙しいんですよー、ちょっとぐらい手伝って下さいよー」
兄弟子? あらまあ、お店のすみっこの雲のテーブルにつっぷして。三十か四十ぐらいの黒髪男のようだけれど、なんてむさいのかしら。雲のジョッキを片手にのんべんだらり。
「うふえええ、今日もちょっとパスー。ねみーい」
「もう! いっつもそればっかり!」
ふう、猫耳娘が離れてくれたわ。
それにしてもこの兄弟子っていう人、なんだか……。顔は全然違うけれど、これと同じ雰囲気をかもす人を知っているわ。
あのウサギの塔に住んでいる、ウサギの奥さん――の中にひそんでいる、ひげぼうぼうのおじさん。
だらけ具合がその人とそっくり。店主とこの人がまとっている衣も、なぜかそのおじさんとまったく同じものみたいね。ということは、この人たちって。
「黒の導師さまなのですか?!」

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- かいじん
- 2018/08/05 21:41
- ハタチになってからのくだりがウケタw
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