Nicotto Town



自作7月 天の河 「門出」1/2

 マブシイ……

 ココハ、ドコ?

 マッシロ

 ヌクヌク

 キラキラ


 マッシロ

 ヌクヌク

 キラキラ……

 


 ここはなに?

 なんてふわふわ……雲の上にいるようね。 

 どうしてこんなところにいるのかしら。


 きゃっ! 雲が分厚い。うまってしまったわ。

 なんてあたたかい……

 白くて。輝いていて。ここはなんだか、ものすごくなつかしいところね。

 声がきこえるわ。

 とても遠くの、下の方から誰かが叫んでいる。でも、よく聞こえない。

 ここはあたたかすぎて、とけてしまいそう。

 ほろほろとろけて、なくなっていくような気がする。

 ほろほろ

 ほろほろ……

 白くて。輝いていて。あたたかくて。なつかしい……

 ほんのりあたたかい光が雲を照らしている。

 風が吹き抜けていく。

 生暖かい風。ああ、雲が割れた――

 雲の合間に、誰かいる…… 

 なんてきれいな虹色の輝き。

 もしかして……|母様《・・》?

 私をかわいがってくれた偉大な神獣――優しき牙の王は、最期まで気高かった。

『黄金の娘よ。我は天河へ昇る。我を船に乗せて送り出せ。

 これからはおまえが、兄弟たちを導くのだ』

 リュカオーン母様、ごめんなさい。

 私はたった五百年しか牙王の座にいられなかった。

 あなたはその三倍もの年月、兄弟たちを統べ、守り、育んだというのに。

 それどころか黒き森連なる大国を、あまたの神獣たちから守りぬいたというのに。

 時が経つにつれ兄弟たちは次々寿命で動けなくなり、我らが身を寄せる国は森の中に沈んでしまった。

 私が率いていた狼たちは、ほんのわずか。なんとか数回、戦のお役に立てた程度。偉大な母様に比べれば、とても恥ずかしくて堂々と言えぬぐらいの生き様だった。

 でも私は、後悔していない。

 一番守りたいものを守ったから。兄弟と同じぐらい大事な者の命を、守れたから。

 だから母様、どうかこうしておそばに戻ることをお許しくださ……


――「いらっしゃいませー!」

 

 えっ? 

 母様じゃ……ない?!

 虹色だけれど、人の形をしているわね。 

 頭に猫耳? 短いスカートにひらひらエプロン装着?

 ね、ネコ……うう、一番いやなものが現われるなんて、ここはほんとうに天上なの?

 くいくいと招き手をして、ひどく怪しいわ。

「ご来店ありがとうございまーす。当店へお越しのお客様、今日は大変なラッキーデイですよー! 開店五十周年の記念日でーす!」

 は? お店?! 開店?! 五十……?!

 とするとこの両手組んでサッとお辞儀をしたこの猫耳娘は……店員?!

 って何のお店の?!

「はーい♪ 天上の雲の屋台へ、ウェルカムですう!」


 

 仰天しているうちに、いきなり白い雲が割れたけれど。そこに何か、建物のようなものがあるわね。

 たしかにこれはまごうことなくお店だわ。

 渦を巻いている白い大きな屋根。もこもこの柱。ふわふわのカウンターと椅子。みんな白い雲でできているのね。 

 雲の椅子はどれだけあるの? ずいぶんたくさん並んでいるわ。いろんな生き物が座っている……

 あれは我が眷属? 飼い慣らされている子のようだけど。そっちのは猫ね。ネズミ、牛、虎、ウサギ、竜ヘビ、馬、羊、サル、鳥……

 むろん人間も。なんかへんな魔物もごっそり。

 雲のお皿に蜘蛛のジョッキ。みんなが食べているものはなに?

「さあさあ、そこのお席にどうぞ。今日は開店記念日ですから、きっとすごくいいことありますよぉ。オーダーは店主に直接おねがいしまーす」

 虹色の猫耳娘にすすめられて、もこもこなカウンター席の雲の椅子に座ったはよいけれど。

 店主というのは……

「やあいらっしゃい。お美しい方じゃのう。さて、何にするかね?」

 黒い衣をまとった白い髭のおじいさん?

 もこもこの雲を両手に持ってニコニコしているけれど、もしかしてここで出されるのは……雲なの?

「好きなものを何でも作ってやるぞい」

「お客さま、おすすめは雲のワタアメですよ」

 ああ、猫耳娘が親切にまとわりついてくるわ。猫は苦手なのに。

「夏季限定で今年はキャラメルフレーバーシリーズを展開厨でーすっ。練乳キャラメルは甘党におすすめ。ビターキャラメルは大人のお味。あ、タバコとお酒はハタチになってから。お客さま、享年おいくつでした?」

「……千五百十五歳だったかしら」

「わあ! ご容姿からは想像もできないぐらいのご長寿だったんですね! それじゃあピンクの雲カクテルはどうです? おしゃれで大人のお味で最高ですう」

「これこれ、まーた自分の好物をおしつけるでない。ほれ猫耳ちゃん、お客さんがまたきたぞ。出迎えしてこんか」

「ああんもう。店長あたしばっかりこきつかう~っ。ねえねえ兄弟子さまー、忙しいんですよー、ちょっとぐらい手伝って下さいよー」

 兄弟子? あらまあ、お店のすみっこの雲のテーブルにつっぷして。三十か四十ぐらいの黒髪男のようだけれど、なんてむさいのかしら。雲のジョッキを片手にのんべんだらり。

「うふえええ、今日もちょっとパスー。ねみーい」

「もう! いっつもそればっかり!」

 ふう、猫耳娘が離れてくれたわ。

 それにしてもこの兄弟子っていう人、なんだか……。顔は全然違うけれど、これと同じ雰囲気をかもす人を知っているわ。

 あのウサギの塔に住んでいる、ウサギの奥さん――の中にひそんでいる、ひげぼうぼうのおじさん。

 だらけ具合がその人とそっくり。店主とこの人がまとっている衣も、なぜかそのおじさんとまったく同じものみたいね。ということは、この人たちって。

「黒の導師さまなのですか?!」

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2018/08/05 21:41
ハタチになってからのくだりがウケタw




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