「もう会えない」Ⅴ-1
- カテゴリ:自作小説
- 2019/01/19 00:36:59
Ⅴ
2月に入ると、翔からのLINEが一気に増えた。
1月末くらいから受験日などで、休みの日が多いのだそうだ。そういえばそうだったな、と私の方は懐かしく感じていた。翔からのメッセージは、暇だよお、とか、逢いたいよとか、そんな言葉がたくさん送られてくる。
翔はすぐに大学が決まったようで、どこなのかを聞いたけれど、内緒、と笑って教えてくれなかった。そのくせ、一緒に入学式に行こうよ、などと言ってくる。
頼りになるのか、甘えん坊なのか、よくわからないけれど、私たちは幸せな日々を送っていた。
3月に入って年度末の忙しさがやってきた。
残業が増え、平日に翔と逢える日は格段に減っていった。その分メッセージは多くなり、ひとつひとつそれに返事をする余裕が私にはなかった。
ある夜、突然翔が現れた。とっくに寮の消灯時間は過ぎている筈だった。
「どうしたの。寮は抜け出さない約束でしょう?」
ふてくされたように、だってなかなか逢えないから、と翔は答えた。
考えてみれば、これまで翔は一度もあの約束をやぶったことはなかった。よく我慢してくれたものだと、改めて私は思った。
「私だって逢いたいけれど、これは仕方ないのよ。翔が大学生になる頃には、仕事も落ち着くから」
すると、翔は私の腕を掴んでいきなり抱き寄せた。息が止まるほど強く抱きしめられて、私は声も出なかった。腕の力が強くて、ほどくこともできない。私は諦めて、翔の肩に顔をうずめた。
安心したのか、翔は少し腕の力を緩めた。そして、耳元でささやいた。
「大事な話があるんだ。2週間、ううん、10日間でいいから、仕事を休んで」
10日間も? この時期に? それは絶対に無理な話だった。
「お願いだから。仕事を休んで、ボクと一緒にいて」
今まで、翔がこんなわがままを言ったことはない。一体、何があったというのだろう。
翔は私の頬を両手で包み込むと、真剣なまなざしでもう一度同じことを繰り返した。
「無理なのはわかってる。でも、もう時間がないんだ」
時間がない? 一体どういうことなんだろう。これから、大学生という新しい生活が始まるというのに。
ボクを見ていて、そう言うと、翔は私から離れて一歩後ずさった。
それから起こった出来事は、とても現実とは思えない、信じられないものだった。
可愛い制服姿の翔の姿が薄くぼんやりと、透けてゆく。驚いた私がつかもうと手を伸ばすと、そこには同じ顔をした軍服を着た翔の姿が重なった。私の手は宙に浮いたまま止まってしまい、軍服姿が霞んでいくと今度は裃姿へと変わっていった。その姿も揺らぎ始め、平安時代の貴族のような姿へと変わり、また今度は奈良時代の官服姿へと変わっていく。その間、顔だけはずっと私の知っている翔のままだった。
最後の姿が薄くぼやけていくと、一瞬で現在の翔の姿に戻った。
私は唖然としたまま立ち尽くし、翔をただみつめることしかできなかった。
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