「もう会えない」Ⅵ-2
- カテゴリ:自作小説
- 2019/01/22 01:44:04
(続き)
私はできるだけ、朝起きて、食事を取って、洗濯をして、という普通の生活をするように努めた。
自堕落な生活を、翔と送ることは嫌だと思ったから。
その日も、翔と2人で作った炊き込みご飯を食べて、うとうとしかけた翔をソファーに連れてゆき、膝枕で寝かせていた。
翔の髪を撫でながら、昨夜の疲れのせいか、私も眠りかけていた。
「…みゆき」
翔の声に目を覚ます。
見ると、翔の姿がぼんやりと霞んでいた。
「翔!」
翔は腕を伸ばすと、私の首を抱いて自分の顔に近づけた。
私たちは涙をこらえながら、笑顔で唇を交わした。
次第に、首にあった翔の腕が軽くなってゆく。
「みゆき、愛してる」
翔のハイトーンボイスも微かな響きに変わっていた。
「私も愛してる。逝かないで、翔」
私は膝の上の翔を抱きしめながら何度も何度も叫んだ。
「みゆき…」
翔の掌が私の頬を包み込む。
「…あい、して、る」
その時、ふわっと光の粒が輝いたかと思うと、翔の体を包んだそれは一気にはじけ飛んだ。
ふいに、私の膝の上が軽くなった。
「翔!」
何も残ってはいなかった。私の膝の上には、翔がいた痕跡一つ残っていなかった。
「う…」
嗚咽が止まらなかった。涙があふれてあふれて止まらなかった。泣いても泣いても、翔は戻らなかった。
いつの間にか陽は落ちて、辺りは真っ暗になった。
私は狂ったように家中の電気を付けて、翔の姿を探し回った。
台所はもちろん、洗面台も、リビングも、洗濯機の籠の中にすら、翔が使っていたものが残っていた。
でも、翔の姿はどこにもなかった。どこを探しても。
私は、ソファーに崩れ落ちるように座り込んだ。
『出会いたい、じゃ駄目だったんだ。添い遂げたい、って言わなければいけなかったんだ』
翔の言葉がよみがえる。
逝ってしまったのだ。本当に。
翔との出会いから今日までのことが走馬灯のように繰り返す。
たった4ケ月。もっと色々なことができただろうに。
それでも、この10日余りの密度の濃い日々が、何年も一緒にいたかのように思えたのだった。
翌々日、私は会社へと戻った。
上司が病欠にしておいてくれたお蔭で、私は方々へ頭を下げただけで会社へ残ることができた。
春になった。
名前のせいで、余り好きではなかった冬は終わった。
けれど、今は冬が恋しい。
翔と過ごした、あの短かった冬の日々が恋しくてたまらない。
― 完 ―
























