Nicotto Town


タウン生活いろいろ


たまには、のんびり詩など①


秋の夜の会話  草野心平


さむいね。

ああさむいね。

虫がないてるね。

ああ虫がないてるね。

もうすぐ土の中だね。

土の中はいやだね。

痩せたね。

君もずゐぶん痩せたね。

どこがこんなに切ないんだらうね。

腹だらうかね。

腹とつたら死ぬだらうね。

死にたかないね。

さむいね。

ああ虫がないてるね。



この詩を最初に読んだ時、誰と誰が会話を交わしていると思いましたか?
自分が感じた誰かと誰か。
それで正解なんだと思います。
心平さんを知っている人なら、「ああ、ぐりまとるりだだな」って
思うだろうけど、そんな風に思ってしまうのは、逆につまらない。

しんとした秋の静寂の中、季節は冬に近づいている。
「寒いね」と声をかけられ、「ああ、寒いね」と返事をする。
「痩せたね」と言われ、「君も随分痩せたね」と応える。
なんだか切なくなって涙でそうになる。

「腹とったら死ぬだろうね」
「死にたかないね」
もしこれが人間だったら、人がこんな風に死んでいくのって
どういう時?
もしかして戦争中は、こんな風に人が死んでいくしかなかったのかもしれない。

さいごのリフレイン、最初の会話に戻った二人が
「さむいね」
「ああ虫がないてるね」と言葉を交わす。
この会話の最初に戻る二人がたまらなくつらい。
「さむいね」という言葉が、ずきずきと痛い。

こんなしんと死を語られたら、どうしようもなく泣ける。
いやだ、いやだ、死んじゃいやだと泣き叫びたくなる。

#日記広場:小説/詩




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