たまには、のんびり詩など②
- カテゴリ:小説/詩
- 2019/05/11 12:30:06
そこの梢のてつぺんで一はの鶸(ひわ)がないてゐる 山村暮鳥
すつきりとした蒼天
その高いところ
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
昨日(きのふ)まで
骨のようにつつぱつて
ぴゆぴゆ風を切つてゐた
そこの梢のてつぺんで一はの鶸(ひわ)がないてゐる
それがゆふべの糖雨で
すつかり梢もつやつやと
今朝(けさ)はひかり
煙のやうに伸びひろがつた
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
それがどうしたと言ふのか
そんなことをゆつてゐたのでは飯がくえぬと
ひとびとはせはしい
ひとびとのくるしみ
くるしみは地面一めん
けれど高いところはさすがにしづかだ
そこの梢のてつぺんで一はの鶸がないてゐる
緑色の風が吹くくらい、どこまでも原っぱが広がっている場所。
そこに一本だけ高い高い木がある。
まっすぐに、すこやかに、天に向かって伸びている。
そこに一羽の鶸が飛んでくる。
鶸と言うのは、色の名前に「真鶸色」という名前があるくらい
色のきれいな鳥です。
黄緑色よりほんの少し強い緑が特徴的な小さなかわいい鳥です。
その鳥が、ぴゆぴゆ(ピューピューじゃないところがかわいいですね)
風を切っている梢の上に止まって、かわいい声で鳴いている。
北海道で過ごしていた私には、
なんだか子供の頃の思い出の中にすっと入り込めるような景色です。
この詩の中で、暮鳥さんがルビを振ったのは、
鶸(ひわ)、昨日(きのふ)、今朝(けさ)だけです。
ここでは、縦書きできないし、ルビも振れないんですが、
紙に書かれたこの詩を見ると、昨日と今朝にルビがあることで、
全体がとてもきれいに見えるんです。
暮鳥さんは、純銀モザイク
(いちめんのなのはな いちめんのなのはな、が有名ですね)
でもそうですが、自分の心象風景を本当に美しく表現できる人だと思います。
「そこの梢のてっぺんで」
「一羽の鶸がないている」
このリズム感の良い文章が、ここぞというところに入ってきて、
本当に素敵な景色の中へ連れて行ってもらったような気になりました。
そして、大人になった私には、
「くるしみは地面いちめん」という言葉の重さも
ずしんと響くのでした。