Nicotto Town


タウン生活いろいろ


たまには、のんびり詩など⑥


奈々子へ 吉野弘

赤い林檎の頬をして
眠っている 奈々子。

お前のお母さんの頬の赤さは
そっくり
奈々子の頬にいってしまって
ひところのお母さんの
つややかな頬は少し青ざめた

お父さんにも ちょっと
酸っぱい思いが増えた。

唐突だが
奈々子
お父さんは お前に
多くを期待しないだろう。
ひとが
ほかからの期待に応えようとして
どんなに
自分を駄目にしてしまうか
お父さんは はっきり
知ってしまったから

お父さんが
お前にあげたいものは
健康と
自分を愛する心だ。

ひとが
ひとでなくなるのは
自分を愛するのをやめるときだ。

自分を愛することをやめるとき
ひとは
他人を愛することをやめ
世界を見失ってしまう。

自分があるとき
他人があり
世界がある。

お父さんにも
お母さんにも
酸っぱい苦労がふえた。
苦労は
今は
お前にあげられない。

お前にあげたいものは
香りのよい健康と
かちとるにむずかしく
はぐぐむにむずかしい
自分を愛する心だ。



自分を愛することを勘違いしている人は山ほどいる。
インスタで自撮りをのせまくることが自己愛だと
うすっぺらく思い込んでいる人も多い。
他人と比較して、マウンティングすることが
自分大好きだと勘違いしている人も多い。
自分が運転を誤って人をひき殺しておきながら、
入院して逃げまくり、責任から逃れることが、
自分に優しいと信じている人もいる。
そういうのは、決して「自分を愛している」と言えないのではないか?

本当に「自分を愛する時」、その時初めて
「他者」があり、そして「世界」がある。
「他者」がある人は、人を傷つけるようなむごいことはしない。
「他者」と自分を比較して、偉ぶったり安心したりしない。
でもそれは、本当に勝ち取るにはあまりにも困難で
まして育んでいくには、相当な努力と困難が必要なことなのでは?

ここでいう「他人」そして「世界」を
この詩を読むたび、深く考えさせられます。

そしてこの詩は、若いお父さんが、わが子へ注ぐ優しい思いに
溢れていて本当に大好きです。

#日記広場:小説/詩




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