Nicotto Town


まったり時間。


【お話】祈りを、ここに。

かつて魔道師がつどったこの街に、静かに祈りが降る。幻獣の眠りと共に、誰も知ることなく、静かに。

もらったステキコーデ♪:14

祈りが、降る。


静かに、静かに。降り積もる……。

この街にはかつて、

真理を尊ぶ、塔があった。

それは、学び舎であり、

修行の場であり、祭儀の場、

そして神殿でもあった。

そこには世界を愛し、この世の法則を学び、極めんとする、

魔法使いたちが集っていた。

彼らは共に生活し、おのれを磨きあい、

過去を、未来を、夢を語り合って、過ごしていた。

塔は、もうない。

時の流れのなか、戦と戦のはざまで、すりつぶされ、

知識と知恵は散逸した。

かつて、そのような場所があった、と、

伝える者もいたが、それは、たわいもない夢物語と言われるようになり、

もうずいぶんとたつ。

わたしの血筋は、ここ出身の、魔法使いの一人だったらしい。

呼びかける、小さな声に気づいて、

ここに来た。とても古い、呼び声だった。

ここがそうであると、知らなければ、

どこにでもある街が、そこにはあった。

塔の名残は、どこにもない。

かつてそこに何があったか、知らない人々が新しい街を築き、

暮らすようになったのだ。

しかしそれでも、

街を歩くとどこかしらに、

古びた力のかけらが、声が。

かすかに響いていた。

ひびく声には、祈りがあった。

はるかな時の流れの中、真理を愛する同胞たちに、幸いあれと、願う祈り。

街の中央には、異界に続く門が隠されていて、

そこには、あるじをなくした幻獣が眠っていた。

いつから、ここにいるのか。

いつまで、眠り続けるのか。

わからないけれども、悲しみに沈むその幻獣のために、

せめて夢のなかで、あるじと出会えるようにと祈った。

門を閉ざして街に戻ると、夜。

建物のあかりに、人の世の営みを思った。

小さな幸せが、いとおしい。

大切な誰かと過ごせる時間が、ただ、いとおしい。

だからわたしも、祈りを送ろう。過去の学徒と、未来の誰かに向けて。

幸いあれ。

すべての命に。世界に。

真理を愛するものに。

幸いあれ。

そうして、静かに、静かに。

祈りが、降る……。


***


眠り続けるドラゴンと、街のあかり。

ちょっとノスタルジックな感じで。






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