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本当は恐ろしい忠臣蔵のおはなし その4

何の理由もなく人に襲いかかって殺そうとするときの原因ってなんだろう。

これが忠臣蔵で浅野内匠頭が吉良上野介に斬りかかった事件のいちばんの謎だ。だから、吉良が浅野をいじめ抜いて大勢の前で罵倒したことにした。そうじゃなければ、街中でもいつ浅野みたいなのが出てきて刀を振り回して襲ってくるかわからないから、怖くて仕方がない。

忠臣蔵でも多門伝八郎が「さだめし乱心であろうな」と浅野に問いかけ、浅野が「乱心ではござらぬ。遺恨でござる」と答える名場面がある。

乱心とはなんだろうか?

「逆説の日本史14 近代爛熟編」井沢元彦著によると。

”当時、いや江戸時代を代表する知識人である荻生徂徠は、浅野や大石のことを次のように批判している。

長矩一朝之怒忘其祖先而従事匹夫之勇欲殺義央而不能(中略)四十有七人者可謂能継其君之邪志(『梶川氏筆記』「赤穂義人纂書 赤穂義士史料大成」鍋田晶三校注 日本シェル出版刊)

<大意>
浅野長矩は一時の怒りに先祖の恩すら忘れて、吉良義央を殺そうとした。このこと自体不正義であるのに、(大石ら)四十七士は、その主君の「邪志(邪な志)」を継いだ。どうしてこれが正義といえようか。

「邪志」ということがわかりにくいかもしれないので、これを現代の例にたとえてみよう。

暴走族「アコーズ」のサブリーダー大石が捕まった。容疑は無抵抗の老人をよってたかって「なぶり殺し」にした、というものだ。警察の「なぜそんなことをしたのか?」という取調べに対して、その男は次のように答える。
「あのジジイはもともとウチの頭の浅野が狙ってたんだ。あのジジイが気に入らないんで、油断しているところを後ろから鉄パイプでぶち殺そうと思ったら、運良く助かりやがって、頭の方は捕まってムショに入れられて、この間死んじまった。さぞかし無念だったと思うよ。だからオレたちはみんなで頭が出来なかったことをやってやろうと思ったのさ」

こんな事件が現代で起こったとしよう。「いや若者の気持ちはよく理解できる」なんて評論家はいるだろうか? 「リーダーは人徳があったんだな(これだけ多くの人間に慕われているんだから)」とか「彼らの団結心は見上げたものだ」という人がいるだろうか?”

そうどう考えても筋が通らない事件なのだが、忠臣蔵は美談に仕立て上げられている。現代同じ事件があったとしても絶対に美談にはならないだろう。バカ殿がやったことをバカの家来が逆恨みで強行したくらいにいかならないからだ。

「乱心」とは現代でいう「統合失調症」だった。統合失調症は「感情鈍麻」という普通の人なら気が動転するようなときでもまったく冷静でいられるという症例が見られる。浅野内匠頭も田村家預かりになったあとで。

”そして内匠頭が牢に入ると、準備されていた一汁五菜の食事が運びこまれた。
その時内匠頭は湯漬二杯を食べたと、この内匠頭御預一件には記録されている。
この田村家の記録は信用できるものである。つまりこんな時でも浅野はちゃんと食慾があったのである。(中略)おそくとも翌日には処刑になるのである。過去の例から浅野はちゃんとそのことを知っていたはずである。(中略)にもかかわらず浅野は田村家の役人に酒をのみたいとか、たばこをくれとかいっている。(中略)浅野は自分のやったことがどういうものであるか、理屈ではわかっておりながら、本当の意味でわかっていない。(酒をのましてくれ、タバコをくれといいながら、自分のやったことを家族や重臣に対して何も報告していないのである>)「精神科医の見た赤穂事件 浅野内匠頭刃傷の秘密」中島静雄著(メディカル・パブリシティ刊)”

現代では殺人犯の精神鑑定で精神に障害があると出れば罪が減じられる。死刑のところでも無罪になったりもする。江戸時代で乱心だった場合はどうなるのか。きちんと知っておく必要がある。

つづく。




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2019/06/26 15:56
>ゆりかさん
こんにちは^^
作家の井沢元彦さんは古代から現代まで歴史のいろんな謎とか疑問とかを綿密に調べて本になさっていて、かなり面白いです。アコーズのお話も井沢さんのもので、以前テレビで紹介したこともあるみたいですよ。
時代劇でよく「乱心」って出てくるから何だろうって調べたことがあったのですが、やはり精神的におかしいことで使われていたみたいですね。
また遊びに来てくださいね。コメント楽しみにしています^^
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2019/06/25 17:22
こんばんは、kiriさん。
私生活がバタバタしてて、コメント遅れました。
楽しみにいていた続きが読めて嬉しいです♪

暴走族「アコーズ」の、例え話が面白過ぎますね(*^▽^*)
いやまさにその通り!何てわかりやすい例えでしょう。
吉良擁護派としては、忠臣蔵討論に花が咲いたら、この例えをぜひ使わせて頂き、弁護したいと思いました。

乱心とはそういうことでしたか。
確かに動機としては、しっくりくるような気がします。
続々と続きがアップされているので、また時間を見つけてコメントしに来ますね。

面白い記事を読ませて頂き、ありがとうございました(*^^*)
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2019/06/18 15:55
>ワニガマさん
こんにちは。
忠臣蔵って史料をちゃんと読むほど、浅野は名君じゃなくなっちゃうのですよね。
美談にするってすごい作業だなあって思っています。
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2019/06/18 00:19
 いやぁ、いいね いいねぇ。
 なんか、うれしくなっちゃうなぁ。
 続きが楽しみです。




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