本当は恐ろしい忠臣蔵のおはなし その15
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- 2019/07/04 16:31:49
吉良邸に討ち入って吉良義央を討ち取った赤穂浪士の処分について、林大学頭信篤は幕府顧問の立場で「亡君の仇」を復したから「助命すべき」と答えたのだが。史実は全員に切腹の沙汰が下されている。それはなぜか。
「逆説の日本史14近代爛熟編」井沢元彦著によると。
荻生徂徠が「助命論」に異を唱えたからだという。
”大石ら四十余人は、亡君の仇を復したといわれ、一般世間に同情されているようであるが、元来、内匠頭が先ず上野介を殺さんとしたのであって、上野介が内匠頭を殺さんとしたのではない。だから内匠頭の家臣らが上野介を主君の仇と狙ったのは筋ちがいだ。内匠頭はどんな恨みがあったのか知らんが、一朝の怒りに乗じて、祖先を忘れ、家国を忘れ、上野介を殺さんとして果さなんだのである。心得ちがいといわねばならぬ。四十余人の家臣ら、その君の心得ちがい(原文は「邪志」引用者註)を受け継いで上野介を殺した、これを忠と呼ぶことができようか。しかし士たる者、生きてその主君を不義から救うことができなんだから、むしろ死を覚悟して亡君の不義の志を達成せしめたのだとすれば、その志や悲しく、情に於ては同情すべきも、天下の大法を犯した罪は断じて宥すべきではない。
元来、義は己れを潔くする道で、法は天下の規矩である。彼らがその主のために仇を報じたのは、これ臣たる者の恥を知る所以であるから、己れを潔くする道で、その事は義ということができる。しかしこれはその仲間だけに限る事であるから、つまり私的の小義である。天下の大義というべきものでない。
内匠頭は殿中を憚らずして刃傷に及び処刑せられたのであるから、厳格にいえば内匠頭の仇は幕府である。しかるに彼らは吉良氏を仇として猥りに騒動を企て、禁を犯して徒党を組み、武装して飛道具まで使用したる段、公儀を憚らざる不逞の所為である。当然厳罰に処せられるべきであるが、しかし一途に主君のためと思って、私利私栄を忘れて尽したるは、情に於て憐むべきであるから、士の礼を以て切腹申付けらるるが至当であろう。しからば上杉家の面目も立ち、彼等の忠義をも軽んぜざる道理が明らかになって、最も公論であろう。もし私論を以て公論を害し、情のために法を二、三にすれば、天下の大法は権威を失う。法が権威を失えば、民は拠るところがなくなる。何を以て治安を維持することができよう。
(『正史 忠臣蔵』福島四郎著 中公文庫)”
正論であるとしかいえないくらいの厳しい意見で、忠臣蔵錯覚に陥っているとなぜ吉良ばかりを守るってなる。実際、吉良は被害者で、一方的に襲われ、浅野をバカにした言動は誰も聞いていない。
さらに厳しい意見を山崎闇斎の弟子で崎門の三傑のひとりの佐藤直方が述べている。
”「四十六士が大刑に処せられずに、武士の礼をもって切腹の刑を受けたことは、上の御慈悲によるものであり、彼らの幸いというべきである。しかるに世俗雷同して四六人を忠臣義士と称している。義理を明らかにしないで無知の人がそのように誤り称するのも無理からぬことである。学者たちの中に林鳳岡(信篤)の説に雷同して、幕府の裁定は理に当たっており、彼らの志も義に当たっているなどという者がいるが、官裁が理に当たっているというのなら、彼らは不義の輩以外の何ものでもないはずである。
四六人は吉良を主君の讐であるとし、君父の讐とともに天を戴かずとの語を引いているが。それは間違っている。吉良は彼らの讐ではない。吉良が浅野を害したのなら讐というべきであるが、浅野は私怨によって吉良を討ち大法に背いたのだから死を賜わったのだ。吉良をどうして讐ということができよう。大法に背いて死刑にされた、上を犯す罪人が、見当違いにも吉良を討った。未練腰抜けの仕業というべきである。
次に、彼らが討ち入って目的を果たした後、このような行為は上に背くことだと、その罪を自覚して泉岳寺で自殺したのなら、義理には当たらなくても、その志は同情の余地がある。しかるに四六人は仙石の屋敷まで自訴して出て、上の命を待った。これは死をのがれ、あわよくば賞誉してもらおうとの魂胆に外ならない。流浪困窮して腹立ちまぎれに吉良を討ったもので、忠義心や惻怛(いたみ悲しむ)の情から出た行動ではない」
(原文『佐藤直方四十六人之筆記』現代語訳『忠臣蔵第三巻』八木哲浩著 兵庫県赤穂市発行)”
四十六士の討ち入りは犯罪者そのものであって、法においても情においても言語道断という厳しさであった。
荻生徂徠、佐藤直方の説が流布していれば今の忠臣蔵錯覚はなく、歌舞伎も映画もドラマもなかった。
しかし、崎門の三傑の残りふたり三宅尚斎と浅見絅斎は真っ向から反論して現代に残る忠臣蔵の理論を形成していくのだ。
つづく。
こんにちは^^
刃傷から討ち入りまでの流れをきちんとタイムラインで追うと浅野長矩がいちばん悪いで落ちつくのですが。
処分の話から、本当におそろしいことになります。
幕府が処分を誤ってしまったために、ここで未来は決まってしまうのですよー。
ってことでしばらく続きます。
こんにちは。コメントありがとうございますm(__)m
刃傷→討入ときてやっと処分の話になりました。
ここからようやく本当に怖い話の部分です^^
前から読むと、議論が別れたんですね・・・
でも、忠義の討ち入りとも、私闘とも取れる。
今でいう所の夜を狙った集団リンチですから、
法的に裁かれるべき所でもある。
あくまで被害者は討ち取られた吉良であって、
民衆の支持があっても大石の行動を無罪にするのは難しい。
が、仮に、処刑してしまうと、
民衆の怒りが向かうのは幕府であるかもしれない。
円満?に切腹させてあげましょう、と。
だいぶ、細かい流れがはっきりしてきましたね。
忠実とはこんなものかもしれません。