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江戸は怨霊慰撫の街って知ってた? その6

闇の夜は吉原ばかり月夜かな 宝井其角

蕉門十哲第一の門弟といわれる宝井其角も吉原の煌びやかな様子を詠んでいるが、歌舞伎『曾我綉侠御所染』の中で主人公の御所の五郎蔵は捨て台詞として、

『晦日に月の出る郭も、闇があるから覚えていろ』

と相手に向かっていう場面がある。

当時は太陰暦だったから晦日は新月と決まっていた。しかし、吉原だけは都々逸で『卵の四角と女郎の誠あれば晦日に月が出る』といわれて絶対に有り得ないこととして例えとなっていたくらいだった。

「QED 白山の頻闇」高田崇史著によると。

”『お茶を挽く』ばかりだったり、病で倒れてしまったりした遊女は、行燈を収納しておく妓楼の奥の行燈部屋などに閉じ込められて、厳しい折檻を受けた。そして実際にそこで、飢えと衰弱のために命を落としてしまった遊女たちが、何人もいたという。
それでもまだ、花魁を始め、妓楼に出らられている遊女達は良かった。
そのまま年を取ってしまったり、あるいは梅毒を始めとする病に罹ってしまった遊女たちは、吉原最下層の『羅生門河岸』や『浄念河岸』と呼ばれる場所で暮らすことになった。
鬼退治で有名な、源頼光の四天王の一人、渡辺綱が、京の都の羅生門で鬼の腕を切り落としたということから名づけられたんだ。つまり、この河岸の近辺を歩いていると、待ち受けている遊女から、私を買ってくれと、腕を抜かれるくらい引っぱられるという意味から来ているという。そして彼女たちは、長屋のような造りの切見世で、一人あたり二畳ほどのスペースの中で仕事をしながら、細々と生活していたらしい。一生を終えるまでね。
男たちにとっては『極楽』だった吉原も、遊女たちにしてみれば『苦界』だった。ゆえに彼女たちは、何とかして吉原から逃げ出そうと試みた。”

唯一の出入り口の大門のすぐ脇には四郎兵衛会所で、どんなに変装していても見とがめられて捕まってしまう。

”彼女たちは、他の遊女への見せしめの意味もあって、筆舌に尽くしがたい折檻を受けた。これは、客との心中に失敗して生き残った遊女もそうだった。どこそこの遊女が、誰かと心中しようとしたなどという噂が立てば、その妓楼から客が遠のくからな。
実際には、そういった遊女たちは、血反吐を吐いて気絶するまで竹棒で殴りつけられたり、あるいは『つりつり』といって、両手両足を縛って梁から吊され、やはり竹棒で延々と殴り続けられたり、また吹雪の中を庭の木の枝に吊されたまま、何日も放っておかれたりもした。そんな、拷問のような受けた折檻を受けた結果、瀕死どころか、そのまま命を落としてしまった遊女も大勢いたという。
だが、吉原は治外法権。誰からも咎められることはなかった。
それでも毎年、女性たちが吉原に入ってきた。女衒、いわゆる人買いによって誘拐されてきた女性もいる。だが、多くの女性は貧しい家のまだ幼い少女たちうや、没落してしまった武家の娘たちで、自分が身を売らなければ一家全員が餓死してしまうというような状況に置かれている女性だった。ゆえに、親兄弟を救うために頼まれて、あるいは自ら志願して、泣く泣く吉原に入った。
吉原の遊女たちは、江戸の男たちの尊敬の的でもあったのは、もちろん遊郭ごとに和歌や書や、その他さまざまな知識を学ばされていたからということもある。しかし、根本的にはこういった事情があることを知っていたからだと。”

吉原は悪所で、それは歌舞伎も一緒であったが、江戸の男たちは遊女たちを見下したりはしなかった。それはいずれ我が身ということもあっただろうし、つらいところへ自ら入って家族を救う姿は誰の心にも響いたからだっただろう。

つづく。


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2019/07/26 16:15
>ゆりかさん
こんにちは^^
無事に逃げおおせた人もいたかもしれないですが記録を残しているのは吉原側の人間なのでまず書かないでしょうね。年季が明けたから外へ出たとされている花魁も実はおかしいのではってところもありますし。
頭が良くて度胸があるほど、人気が出たのですが、それ故に争い事に巻き込まれてってことも多かったみたいです。
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2019/07/26 16:11
>ジプさん
こんにちは^^
歌舞伎では「八百屋お七歌祭文」「八百屋お七恋緋桜」の八百屋お七、「仮名手本忠臣蔵」の赤穂浪士、「篭釣瓶花街酔醒」の八ツ橋らを慰撫するために作られたといわれているし、現在の映画やドラマで、現実とは違ってお芝居では幸せにってする手法が多く採られています。
江戸のこと、歌舞伎のこと、吉原のこと、っていうと古くて難しくてわからないって終わってしまうけれど、実際はきちんと計算して間違えないように町も作られていたし、文化も広まっていったってことですね。薩長が吉原の文化が高尚すぎてなじめず、吉原が衰退していくのですが、時代が変わったって事ですね。
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2019/07/25 17:57
こんばんは、kiriさん。

遊女の一生って本当に過酷ですね…。
それも、誘拐されたり、親兄弟の借金や貧困ゆえで、自分は何も悪くないのに。
そういう視点で見ると、尊敬という気持ちが芽生えるのも、わかる気がします。

吉原の遊女が、無事に逃げおおせた例はあるのでしょうか。
続きも気になります(*^^*)
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2019/07/25 16:46
江戸のお話興味深く読ませていただいてます。
身近な名前や場所ばかり出て来て、面白く読み進めて行って
気付けばちゃんとコメントも出来ないまま、
その6になってしまいました(^_^;)
自分の住んでいるところは刑場に囲まれていた事を知りました。
歌舞伎は大好きなので吉原を扱ったものも観ています。
その吉原も近くなので、暮れのお酉様に熊手を買いに行きます。
身近な場所で何となく知っていたことを
詳しく解説していただいて、とても勉強になります。
拙いコメントしかできませんが、続きを楽しみにしています(*^-^*)




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