Nicotto Town



私の義姉が変態&シスコンすぎて困ってます

知っているだろうか、飛行機が墜落する可能性は0.0009%だそうだ。
つまるところ、父の死はあまりに突然過ぎた。
この確率に当たった父はどれだけ不運だったのだろうか。
ただ、父の出張日の運勢占いで父は一位だった。運勢占いなんてあてにならない。
幸運なことに、生活には困らなかった。父は出張中に事故にあったので、保険会社、父の会社そして飛行機会社からお金が振り込まれたからだ。
けど、母は悲しそうにその金額を見つめていた。『お金であの人は帰ってこないのよ』と寂しそうにポツリと呟いていた。
母をあんな顔にさせるなんて、父は馬鹿だ。
世間は騒いだ。そりゃそうだ。0.0009%の確率が当たったのだから。
責任がどうのこうのとテレビ画面の中の人はいっているけど、そういうのはどうでもよかった。
もう二度と、こんな過ちを犯さなければそれでいい。責任なんて、どこにあるのかどうでもいい。
連日、テレビ局の人が家を訪ねてきた。決まっていうセリフは、『被害者の方の冥福をお祈りしています。インタヴューをさせていただきたいのですが。』
アホな顔。したり顔して吐くセリフはだいたい同じ。冥福を祈っているなら、放っておいてほしい。疲れ切った顔をした母がテレビ局の人に丁重に断っていた。そんな人たちに丁寧に対応しなくていいのに。
事故が起きて数日後、航空会社の人が事故の説明と賠償金額について話し合いに来た。顔に青あざを作っていた。可哀想に。上からの命令で自分自身が犯した罪ではなかろうに、各被害者の家を周り、謝罪しているのだ。
『ご訪問するのが遅くなり誠に申し訳ありません』
そういって、深く頭を下げた。そのひとの体は小刻みに震えていた。若い男性だった。きっとまだ、就職して日も浅かろうに、可哀想に、そう思った。
付け加えるなら、私は”可哀想に”という言葉が嫌いだ。人を勝手に不幸と決めつける言葉。私は謝罪に来た若い男性を”不幸”と決めつけたのだ。
あなたは何一つ悪くない。そうわかっているのに、私は母のように優しい言葉は一つもかけられなかった。ただ、その人の青あざを見つめているだけだった。
この青あざを作ったのは誰だろう。この人に八つ当たりしても意味がないとわかっているだろうに。そう、この人の顔を叩こうと、殴ろうと、罵詈雑言を浴びさせようと、失ったものは戻せない。そう、戻せないのだ。
私は口を開いた。男性が何かを覚悟したようにぎゅっと体を縮めた。何日かぶりに放つ声は、とても小さく、そしてかすれていた。
『・・・その青あざ、痛くありませんか?』
のちに母は語る。あなたが事故の後にはなった、最初に言葉だったのよ、と。


ー続くー




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