Nicotto Town



私の義姉が変態&シスコンすぎて困ってます

時間が過ぎるのは悪くも良くも早い。
心の傷も癒え始め、新しい生活が始まった。相変わらず、周りの目線は少しみんなとは違ったけど、もう気にならなくなった。
友達も少しづつ元の関係に戻り始めていた。世間の人たちから、事故の記憶は消え始め、メディアは新しい事件を追っている。
ただ、私は少しだけ、人を信じることができなくなった。”親友”のカヨちゃんのいう言葉だって、何か隠し事があるんじゃないかと疑ってしまう。まぁ、それにはれっきとした理由があるのだが。
そんな、歪な『日常』に母は横槍ならず、鉄砲、いや、大砲をぶっ込んできた。

「ねぇ、莉亜。母さんが再婚したいといったらどうする?」

居間に沈黙が訪れた。私の視線は自ずと、仏壇に飾られている父の写真へと向く。
「ええと・・・」
混乱する頭で、必死に考える。再婚という文字が思考を邪魔してくる。
母はまだ若い。今年で、34歳。まだまだ、結婚して楽しい夫婦ライフを送りたいはずだ。父が急死してしまったなら尚更、やりたいことがあるだろう。だが、再婚となると色々と心の準備が必要になる。覚悟はしていたが、母の声で言われた”再婚”は、やわな結界を難なくぶち壊していった。
あまりに長い沈黙に耐えかねてのか、母が再び口を開いた。
「拓さんのことを忘れたわけじゃないの」
母は言い訳をする子供のように小さな声で言った。
ちなみに、拓さんとは、父のことである。フルネームは拓司というのだが、母はいつも拓さんと呼んでいた。
「あぁ、うん、それはわかっているよ?時々パパの写真に話しかけながら、お酒飲んでるし、会社で辛いことがあったらパパのベットで寝てるし、未だにパパの大好物の肉じゃがを週末に作るし・・・」
混乱する頭の中、口に出す予定もないことを口走る。
「な、なんでそんなこと知ってるの!?!?!」
「逆になんで知らないと思ったのか聞きたいけどね」
母は真っ赤になった顔を手で覆い、この世の終わりみたいな声を出している。
「別に再婚に反対ってわけじゃないんだよ。ただ、まだパパのことを好きなのに、なんで再婚するのかなって思って」
いや、再婚には少し抵抗がある。でも、母を悲しませたくなくて、心で思っていることとは違うことを口走る。
私の質問に母は、あぁ、と頷きながら姿勢を正した。再び沈黙が訪れる。
「・・・・・m」
私が口を開きかけると同時に、母は話し出した。
「あのね、莉亜はさ、私のことすごくすごく大事にしてくれるでしょう?バイトしながら塾にも行かずに、成績はきちんと上位の方をキープしているし、家事もやってくれるし。でもね、お友達とは遊びに行かないし、わがままも言わない。お母さんはね、心配なの。莉亜は優しいから、自分のことじゃなくて、私のことを最優先して考えてくれているでしょう?」
少し淋しそうに言い、うつむく母に私は何も言えなかった。
「もっと、わがまま言っていいのよ?確かに余裕がなさそうに見えるけど、多少のわがままなら聞いてあげられるわ」
お母さんを不安にさせたくなくて頑張りすぎて、逆に私がお母さんを不安にさせてしまっていたのか・・・
母に会わせる顔がなくうつむく。
「ママ・・・」
「だから、お母さんが再婚すれば、仕事やめられるし、莉亜との時間が増えるかなって」
何も言えず、ただ、母の顔を見つめる。
一言一句きちんと選ばれた言葉に、私のモヤモヤとした気持ちが薄れていく。完全には無くなってはいないけど、確実に薄れていく。
ただ、その薄まる気持ちを受け入れられずに、私は椅子の上で固まった。
「・・・莉亜?」
「ごめん、もう寝るね」
そのさきの言葉を聞きたくなくて、母の言葉を遮るようにいい、自分の部屋へと向かう。
お風呂に入り、ベットに潜り込んだ後も”再婚”という言葉と、母の”理由”が頭をぐるぐる回っていた。
一言一句きちんと選ばれた言葉に、私のモヤモヤとした気持ちが薄れていったことは確かだ。完全には無くなってはいないけど、確実に薄れていっている。きっと理解はしているのだろう。母がなぜ、再婚を選んだのかも。ただ、父を、パパを、裏切っているように思えて、それを受け入れられないのだ。
ちゃんとママはパパのことを愛しているし、再婚は考えがあってのことなのだ。様子から見るに、何回も何回も考えに考えたのだろう。パパもちゃんとママの決断に納得してくれていると思う。
だが、あと一つだけ、尋ねなければならないことがある。
ぐちゃぐちゃしている気持ちを整理し、私が何をしたいのか、何をすべきなのかを探していく。
見つけ出した気持ちを胸に抱いて、私はゆっくりと夢の中へと沈んでいった。
なぜだか、とても心地よい夢を見たような気がした。




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