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ま、お茶でもどうぞ


井上靖「氷壁」感想ネタバレあり・1

登場人物紹介。(本作品は昭和38年に発行されたものである)


●魚津恭太 
東京の商社マン兼、登山家。30代。真面目な熱血漢でイケメンだが、年に数回行く登山に金がかかって万年金欠病。友人知人に借金しまくっている。義理堅い性格なので、返済に滞っていることはないが、返済のために会社から給料を前借りしているため、貯金はゼロ。
小坂乙彦とは親友で山仲間。小坂と同じく、八代美那子に惹かれる。

●小坂乙彦
魚津と同じく、東京の商社に勤めながら登山家をしている。30代。山形県出身。実家は資産家。体格のいいイケメン。
真面目だが思いつめる性格で、思い込みも激しいストーカー気質。
数年前から人妻である八代美那子に片思いしており、別れろと迫っているが、美那子は拒否している。
冬の穂高岳で魚津と氷壁を登はん中、ザイルが切れて滑落死する。

●八代美那子
30歳で、27歳上の金持ちの男に嫁いだ美女。大正14年生まれ。田園調布に住む。夫との刺激がなく愛もない生活に疲れ、恋をしたくてたまらない状態。夫が出張中、小坂とクリスマスの夜に一度だけ体を重ねるも、罪悪感にさいなまれ、後悔しまくっている。
美那子が自分を愛していると信じ込んだ小坂に再三離縁を迫られるが、なかったことにしたくて嫌悪していた。
小坂の死後、魚津に会って一目ぼれし、魚津に恋するようになる。同じく魚津を愛する小坂かおるをライバル視する。

●小坂かおる
小坂乙彦の妹。会社員。20代後半。兄と二人で、大きな家の小屋に間借りして暮らしている。スキーが得意で、引き締まった体つきをしている。
兄から魚津の話をよく聞かされていて、その頃から魚津に恋をしていた。話だけ聞いて勝手に憧れ勝手に恋し、兄の死をきっかけに本人に会い、魚津と結婚すると決意する。思い込みの激しさは兄ゆずり。以来、積極的すぎるほどに魚津にアタックする。

●常盤大作
魚津の上司で、支社長。60代。坊主刈りの大男で、大食漢でもある。外見的に小林亜星氏を想起させる。豪快でおしゃべり、演説好きでおせっかい。何かと人の問題に口を出してくるが、魚津の唯一の味方でもある。
魚津が登山活動に命を懸けているのを理解しており、彼が無理な休暇願や給料の前借を希望したときは、いつも嫌がらずに処理してくれる。狂言回し的な役割で、都合のいい存在。

●矢代教之助
美那子の夫。東大工学部卒、博士号あり。化学薬品などを取り扱う会社の専務。57歳。明治31年生まれ。妻と語らうより2階の書斎で本を読むのを好む。生活に張りが出そうだというので、若い妻と結婚したものの、年のために夫婦生活に全く興味がない。というか面倒くさくて仕方がない。性的興味もなく、性欲をもてあました妻が不倫に走ったことを薄々勘づいているものの、強く追及しなかった。
小坂の死因となったザイル切断の原因について調査をする。


超おおざっぱなあらすじ。

秋ごろ。会社を休んで穂高岳を登山していた魚津。夕方に東京に戻り、行きつけの小料理屋に行くと、さっきまで小坂がいたと店の人が言うので、小坂が行った喫茶店へ向かう。
話通り、小坂は喫茶店にいた。長時間待たされた様子。ようやく待ち人の美那子が黒い和服姿で登場。美しさに目を奪われる魚津。美那子は小坂に、商店の包装紙で包まれた何かを手渡す。
魚津は小坂と美那子の様子に、不倫を察する。ありていの世間話の後、魚津が美那子を家までタクシーで送っていく。小坂との関係を話す美那子。
美那子は夫が出張中、小坂と会って酒を飲み、勢いでホテルへ行った。最中に小坂へ「愛してる」と口走ったが、本心ではなく、彼が寝ている間に部屋を出た後、猛烈に後悔したこと。
しかし小坂は、美那子の「愛してる」発言を本心だと思い込み、「あなたは自分に嘘をついている、だから夫と別れろ」と手紙などで迫り、困っているという。
(小坂に渡した包みは、彼からもらった手紙の束)
不倫は人道にもとるもの。正義感が強く友人思いの魚津は、小坂をやんわり説得しようと美那子に約束する。

美那子への思いを諦めきれず、苦しむ小坂。美那子がいなければ生きていけないとまで魚津に告白する。険しい山の凍った岩壁を共に見たい存在であると言う。
山を登る男として、魚津もまた、美那子を美しい山の景色に立たせてみたいと夢想する。
しかし不倫は許されないものだ。相手に気持ちがないのなら、無理を押してはいけない。そして、人妻を思う魚津もまた、ふらちだと自身に言い聞かせる。
魚津に気持ちを吐き出して、やや冷静になった小坂は、冬の穂高を攻略することに意識を向ける。

計画通り、年末に穂高登山を開始した魚津と小坂。途中までは順調だったが、氷壁を登はん中、小坂のザイルが切れ、滑落してしまう。落ちる直前に小坂が鋭い悲鳴を上げる。魚津も小坂の名前を叫ぶ。ザイルをたぐると、すり切れたような断面を見せていた。
悪天候の中、懸命に降りながら小坂を呼んだが、返事はなかった。

小坂が穂高で遭難したニュースが新聞で大きく取り上げられた。常盤は魚津が命惜しさに小坂のザイルを切ったのではない、と証明するために、矢代教之助の務める会社に調査を依頼する。矢代の会社の製品だったため、矢代は承諾した。
魚津は友人の死のショックで正直どうでもよかったが、自分の気持ちの整理をつけるため、調査に同意、協力する。

美那子は小坂が自分のせいで自殺したと思い込む。小坂の死の真相を知りたくて魚津に接触するようになる。夫との生活は退屈で、自分はまだ若い、恋をしたいという思いを捨てられない。若い魚津が頼もしく見え、気持ちが魚津に寄っていく。

兄が美那子の恋人だと思っていた小坂の妹かおる。わざわざ美那子の家に行って、兄の遺影をもらってくれとアルバムを持ち込むが、美那子はいい迷惑。
仕方なく魚津と小坂が写った写真を選ぶと、かおるが嫌なそぶりを見せる。さては小娘、魚津が好きだなと勘づく美那子。

麻製のザイルと、ナイロン製のザイルの検証が続く。魚津と小坂が使用していたザイルはナイロンだった。真相究明に奔走する常盤。それについていく魚津。
魚津にときめいて、女らしくあろうとする美那子。口紅を派手にしたり、家でイヤリングを着けてみるが、教之助は「やめろ」と嫌がった。
美那子はそのたびに自分らしく生きられないもどかしさを覚えるも、何もできない。飛べなくなって地面でもがく蜂を踏みつけて殺す。

夏、雪が解けてから魚津はかおると共に穂高へ小坂の遺体を探しに行く。多数の協力者と山を捜索する。すぐに小坂は見つかった。雪に埋まっていたので腐敗もなく、ほぼきれいな状態だった。警察に連絡して検死をし、頭蓋底骨折による即死と断定。木を積んで現地で火葬を行う。
泣いているかおるの肩を抱いて見守る魚津。登山家なら、自分もこのように死にたいと思う。
山小屋に戻り、かおると二人きりになる魚津。かおるから、結婚してほしいといきなり告白される。かおるは火葬の場で魚津と結婚しようと決意したというが、魚津には恋愛感情がなかったので、その話はちょっと置いといてほしいと言う。


2へ続きます











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