頭の中の声
- カテゴリ:ペット/動物
- 2021/06/10 12:18:29
9日の仕事中、使っていたボールペンのインクが切れた。その瞬間、「さよなら、りんごちゃん」と頭の中でしゃべっていた。
いや、いや、まさか。やめろ、自分はいつも悲観的になるから。頭で勝手にそうしゃべってしまうんだ。
自分を戒めたが、何か確信めいたものが拭えなかった。このボールペンを捨てたらりんごちゃんも手術中に死ぬのではないかと思ったが、思い直してやっぱり捨てた。
帰宅後、母の寝室で母とりんごちゃんと一緒に寝た。りんごちゃんはいつも通りに見えたが、私がなでていると起き上がり、私の足の間に寝そべった。
こらこら。あまりにかわいくてそのままにしたかったが、蹴ると危ないので抱き上げた。隣に移そうとすると、甘えたように丸くなって動こうとしない。
抱っこして、しばらくなでていた。翌日はりんごちゃんに手術を受けさせるため、車で45分かかるT市まで行かなければならない。運転に差し支えるため、もう寝なくてはならなかった。
力づくで膝の上のりんごちゃんをどかすと、りんごちゃんは自分の犬用ベッドで横になった。
10日。今日は手術日だ。朝、りんごちゃんは排便をした。小さいのがいくつも固まったもので、色や固さは普通である。腸が圧迫されているからこうなるのだろう。
苦しそうな様子も見せず、車に乗る前から吠えていた。元気があるから、きっと手術も頑張れる、と信じようとした。
母もついてきて、車中でりんごちゃんの写真をスマホで撮り始めた。縁起でもない…と思ったが、昨日の頭の中の声が忘れられない。
出がけに妹が、夢に亡き父が出てきたと言った。私と並んで座っていたという。
じゃあきっとお父さんが守ってくれるね、と笑いあったのだが、そんなはずはない、と心で否定していた。
病院に着くと、担当の外科医が再度、覚悟を聞いてきた。年齢的にも体力的にもリスクがあるが、やるか、と。その覚悟で来ましたと言うと、術前に血液の状態を見てから判断しましょうとなり、1時間以上待たされた。
検査結果が出たので説明を聞く。外科医は、2回血液検査をしたと言った。
最初の血糖値の数値が基準値の88より低い75で、2回目が55になっていた。肝臓に障害が出始めているらしい。
血糖値が低いまま手術をすると、助かっても脳に障害が出るという。
今、緊急輸血をしているが、これで持ち直しても、今日や後日、手術するリスクは高すぎる。
りんごちゃんの腫瘍は良性だが、出血した血を溜めた風船のようになっており、取り出すのはかなり難しいとのこと。
それでも飼い主にやれと言われたらやるけど、手術台で死なせるより、寿命と思って、このまま自然に逝かせた方がお互いのためなのではないか、と外科医は言った。
じゃあ、やめるしかない。私はすぐ「やめます」と言った。
医師の言葉を聞いて、やっぱり、そうきたか…と、思った。
手術成功して生き永らえるか、失敗して死ぬかの二択ではなく、何もしないで看取る、という第三の選択肢。
ある意味予想通りの結果で、手術しなくていいんだ、という落胆と安堵みたいなものがあふれてきた。涙は出なかった。
待合室にいた母に、手術は無理だと告げたら、少し泣いていたが、納得したようだった。
余命3カ月の予想は、どうも外れなさそうだ。
残りの時間を大事に、いつも通りに過ごしていきたい。