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わたしたちは夢見る子どもじゃいられない その3

2015年のノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートンはアン・ケースとの共著「絶望死のアメリカ-資本主義がめざすべきもの」で、中年の白人の死亡が増えていることに注目して「もっとも増加率の高い死因は三つに絞られた。自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患だ。私たちは、これらを「絶望死」と呼ぶことにした。…絶望死が増えているのは、ほとんどが大学の学位を持たない人々の間でだった」ことにたどりつく。2017年アメリカでの「絶望死」は158000人で「ボーイングMAX機が毎日3機墜落して、乗員乗客が全員死亡するのと同じ数字」だという。なぜ絶望死するかの理由についてケースとディートンは、働く機会、恋人を作る機会、結婚する機会、子どもを作り育てる機会、幸せな人生を手にする機会であり、「自分らしく」生きる機会が低学歴アメリカ人から奪われたからと主張している。

橘玲「無理ゲー社会」で、かつて白人保守派は黒人のコミュニティが崩壊して母子家庭が急増したことに「家族の価値を放棄した自己責任」、貧困層が生活保護に頼って暮らすことを「福祉の女王」と責め立てたが、現在、白人労働者階級のコミュニティは崩壊し、10代の女性はシングルマザーになり、職を失った大人たちは社会保障や障害保険の受給対象となっていて「プアホワイトの黒人化」が起こっている。彼らはアメリカの知識社会の「公正な競争の結果」によって、職を失い、アルコールに溺れ、ドラッグにはまり、生きる希望を失った。彼らが主張した「自己責任」によって逃げ場すらなくなって。

1994年に「The Bell Curve」を出版した政治学者チャールズ・マレーは「知識社会は知能のよって分断される」と主張して「人種差別主義者」のレッテルを貼られたが、ノーベル経済学賞を受賞したディートンの研究によって、知能によって社会が分断されていることが追認された。

高等教育の充実によって大学進学率が上がって大卒者は増えたけれども、政治家、財界、官僚の重要なポジションの数は限られていて、「エリートになれなかった」末端エリートが黒人、プアホワイトを襲った絶望死のパンデミックに巻き込まれつつある。彼らは学歴に比べて業務内容が不足する「不完全就業」(学歴過剰)状態で働いている。そのために、非大卒の大人たちは職を奪われることになった。最低時給が業績を圧迫するほど高くなって、雇用する側もミスしないために大卒または経験豊富なベテランばかり雇うようになったからだ。

追い詰められた彼らは、「自己責任」で競争に負けた自分が存在するこの世界が間違っていると考えるようになる。Qアノンなどの陰謀論で、自分が失敗するこの世界は公平じゃないに違いない。だれかの陰謀によって自分はひどい目にあっている。自分が劣っているから悲惨な状態とはとても認められない。だから、誰かの陰謀によってこの世界の公正さが失われていると考える。

彼らは事件の被害者も、誹謗中傷の攻撃をする。それは、自分よりも下だと考えて鬱憤を晴らしているわけではなく、被害者が救われないという不公正な世界を直すために、被害者が悪いからこうなったと攻撃をする。この誹謗中傷は自分を守るとアイデンティティーの問題で彼らは取り下げようとはしない。アイデンティティーすら失うことはつらすぎるから。

続く。





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