わたしたちは夢見る子どもじゃいられない その13
- カテゴリ:人生
- 2021/09/09 21:36:41
「リバタリアン・パターナリズム(自由主義者のおせっかい)」と名づけられた「ナッジ」は、自由な選択を残したまま、よりよい選択をする傾向を高めるよう工夫することだ。よく例としてカフェテリア形式の食堂が挙げられる。フライドポテトのような高カロリーで栄養価の低い料理と、サラダのような低カロリーで栄養バランスがいい料理があった場合、フライドポテトを禁止してサラダを食べさせることは健康にはいいかもしれないが、客の選択肢を奪っていることになる。そこで、フライドポテトを取りにくいところに、サラダを取りやすいところに置くことで、無意識にサラダを選ばせるようにしている。
イギリスの行動洞察チーム(BIT)は、臓器提供者リストへの登録や年金プランの自動登録、税金の督促状に社会規範ナッジ「あなたがお住まいの地域では、すでに10人のうち9人は納税済みです」を使って成功を収めている。ただし、コロナ禍においてイギリスでは死者約13万人と大きな被害が出ており、強制力がないナッジの限界と言われている。
経済学者のグレン・ワイルは法学者のエリック・ポズナーとの共著『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』で「市場原理を徹底することで私的所有権を否定し、共同体(コミューン)を再生する」というメカニカル・デザインを提唱している。
ワイルは「共同所有申告税(COST : common ownership self-assessed tax)」を提案し、すべての私有財産に定率の税をかけることで「保有する価値」から「所有する価値」へと変えようとしている。
橘玲「無理ゲー社会」では、COSTが導入された社会では所有は否定されないが、COSTがかるため「所有」から「レンタル」へと変わって行くという。子どもが私立中学に合格して中学校の近所に家を探すことを例として取り上げている。
「パソコンの画面に希望する地区や間取り、COSTなどの基本情報を入力するとAIがあなたにあったマンションや一戸建てのリストを抽出して表示する。そのCOSTが月額5万円だとして、あなたが「OK」のボタンをクリックすると、そこに住んでいたひとは無条件でその家をあなたに売り渡して出て行くことになる(実際には1ヵ月程度の転居期間が与えられる)。
こうしてあなたは、希望の物件に引っ越すことができた。ここで当然、次のような疑問が浮かぶだろう。「引っ越してすぐに、他の希望者から購入申請されたらどうなるのか?」 だが、そんなことはおこらない。
新しい住居が気に入ったら、AIに長期居住のためのCOST(家の評価)を算出してもらえばいい。それが月額5万5000円であれば、5000円の超過COSTを支払っているかぎり、検索結果にあなたの家が表示されることはない。相場より少し割高のCOSTを支払うことで、あなたはずっと今のところに住みつづけることができる。
子どもが中学を卒業し、転居してもかまわなくなれば、AIに最安値のCOSTを計算させればいい。これによってCOSTを(例えば月額5000円)引き下げることができるが、購入希望者がいれば他の物件に転居しなければならない。こうして、あなたよりもその家に住むことに高い価値をもつひとに不動産が譲渡されていく。」
不動産の個人所有には高いCOSTがかかるようになって、国民全体の共同所有という認知が広まればこのような社会になってもおかしくはない。