Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


空で、笑っていた。

 昨日と今日が仕事の連休だったので、昨日は、兼ねてから心残りだった海辺へ行ってきた。

 愛犬のミニチュアダックスのりんごちゃんは、生前、とても海が好きだった。泳ぐのが好きというのではなく、ただ海辺が大好きだったのである。
 両親と私とで初めて海に行った思い出が忘れられないのだろうか。2度目に妹と連れて行った時は、帰宅した父に駆け寄って、「海へ行ってきたよ!」と大声で笑いながら報告していた。

 昨年亡くなる前の5月に、最後の海遠足へ行って以来、もう思い出の海岸には行かないと決めていた。
 でも、なぜか気持ちが焦って仕方なかった。もう一度行かなければと思いながら日を引き伸ばしていたが、数日前、母とりんごちゃんの遺骨を庭に埋葬してから、引きずっていた未練のようなものが吹っ切れたようである。
 こんなに行きたいと思ったのは、りんごちゃんの魂が海へ誘っているからだろう。

 当日はからりと晴れており、絶好の遠足日和だった。
 よく行っていた海岸への道は、昔ながらの漁師町なので入り組んでいて、運転があまり得意ではないから自信がなく、カーナビを頼りに目的地まで進んだ。途中、何度か道を間違えそうになったが、なんとか神社のある岸壁へ到着した。

 ここの祭神は宗像三神の一柱、市杵島姫命(イチキシマヒメのみこと)。昔、海から弁財天の鏡が出てきたから弁財天として祀るようになったらしい。(適当な気もするが、それも縁なのだろう)
 私はインドが起源の弁財天とは相性が悪いのだが、ここの神様はおおらかで、訪れても嫌な感じがしないので安心している。
 天然記念物が来る小島なので、犬は立ち入り禁止だ。一人で来たので、かなり久しぶりにお参りをした。
 おみくじを引いたら、良くもなく悪くもなく。待ち人は来ずとあったので、新しい犬は当分来なさそうだ。現状維持が良いということだろう。
 商売にもご利益があるというので、カップルや夫婦以外にも、営業職らしき男性の姿もちらほら見かけた。社務所の係の人も、訪れた人達もみんな笑顔なのが興味深い。地元に愛されるいい神社である。

 階段を降りるとき、青い銀杏の葉が落ちているのを見た。ハートの形に見えたので、ここに来たのは良かったのだと確信した。
 神社の下には砂浜があり、シーズン中は海水浴もできる。無性に砂に触りたくなり、手ですくった。さらさらして気持ち良かった。ふと、りんごちゃんもこの砂の感触が、歩いていて気持ちよかったのだと悟る。

 しばらく周りを歩いていたら、小型犬を連れている女性を見かけた。トイプードルかと思ったら、1歳未満と思われるぴちぴちのミニチュアダックスフントの雄だった。毛の色も、亡きりんごちゃんと同じクリーム色である。
 ダックスは、こちらを見てうれしそうにニコニコしていた。亡くなったペットとそっくりの動物を引き寄せて、亡きペットがアピールしてくる話を知っていたので、ああ、りんごちゃんがこの犬を通じて教えてくれたんだと思った。

 りんごちゃんは、昨年の11月に私の夢の中で帰ってきて以来、付かず離れず、私を見守っているようである。だから、この犬に乗り移って会いに来たとかではなく、犬を通してりんごちゃんの思いを私に伝えてきたのだろう。海に来てくれてありがとう、と。たぶんだが、そんな気がした。

 帰り際、神社をガラケーのカメラで撮影した。帰宅して改めて確認したら、神社上空に龍の体のような雲があり、その真上に、「えへへ」と笑った顔が写っていた。うっすら空にかかった雲の模様が、擬人化した犬みたいな顔を作っていたのである。
 あ、ここを読んで「アホか、嘘だろ」って思ってくれていいです。大体、人間の脳は顔を認識するようにできているから、思い込みと言われたらそうかもしれないからだ。

 でも、私にはその笑顔が、りんごちゃんに見える。りんごちゃんが死へ向かう日々の途中、何度も龍のような雲を見ていた。私は勝手にだが、龍は動物の守り神で、頑張ったりんごちゃんを迎えに来たのだろうと信じていた。亡くなる数日前は、鳳凰みたいな鳥の形をした雲も目撃している。

 神様に召し上げられたりんごちゃんは、ただものではなかった。
 私の根拠のない思い込みかもしれないが…、縁あって家に来たペットの中には、飼い主を精神的に成長させる役目を持って来た子もいるのかもしれない。私は、りんごちゃんのお世話と生活を通して、格段に成長した。惰弱だった気持ちのありようや、引っ込み思案な性格が変わった。
 こんなにレベルアップした人間もあまりいないと、自分でも思う。人間をレベルアップさせたペットは、ペットの魂も格上げされて、なんかすごい存在の一部になるのかもしれない。
 だから、もうりんごちゃんを赤ちゃんみたいにかわいいと思っていたらいけないのかもなぁ、とその時は考えていたのだが、写真に写っている笑顔を見たら、今の気持ちのままでも大丈夫そうだと考え直した。
 
 ずっとずっと大好きで、これからも大好きなりんごちゃん。君に会うために、天国へ行くその日まで、頑張って悔いなく生きようと思う。
 




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