Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れ 34

 6歳で石橋に養子として引き取られ、盗賊団の一員になる為に訓練を受けて成長した要だったが、霞の一件依頼、彼には店の女達のお相手という役割が自ずと加えられていた。霞に限らずラ・パルフェ・タムールの女達は大なり小なり皆、客達の要求に応える為自分達の欲望を抑えた毎日を送っていた。
普通の行為に飽きた女達が要に望んだものは自分達に無い非日常だった。
女達はそれぞれが要を自分好みに仕上げようとした。
非日常もそれが常に続くと、もはや非日常ではない。彼女達にとっての非日常は要にとっての日常になっていった。結果として要の性生活はどんどん異常をきたしていくことになったが、ボスは何も言わなかった。
仕事に支障がないかぎりラ・パルフェ・タムールの従業員の男女間で恋愛があろうが肉体関係があろうが、求めるもの同士がお互いに満足できるものであれば何も問題はない。
自己管理。
 ボスといえども、個人の嗜好や趣味に口出しはしないという事だ。要とて、霞を含めて女達の相手をいやいや務めていたわけでは決してない。彼女達の欲望を彼も自分の欲望で満たしていたのだ。女達もそれを知っているゆえに争いもせず適当に自分の分配を分かち合っていた。
ただ、愛があったかというとそれは別である。何人ものコンパニオンを相手に乱れた性生活を送る要が女というものに対してだんだんと心を閉ざしていったのも無理はない。彼女達の求めるものは身体的な快楽だけなのだ。彼女達と心を通わせる事など絶対にない。美しく悲しい霞でさえ、要の閉じた心を開く事は出来なかった。
そんな時、要は何年も前に喧嘩別れしまったアキラたちのことを思い浮かべるのだ。友と呼べるのは後にも先にもアキラ達3人だけだった。あいつら、どうしているだろう・・・喧嘩別れから何ヶ月かしてあのぼろアパートを尋ねたが、アキラはもうそこには居なかった。高架下の店も3人そろって辞めてしまっていた。
「大阪の知り合いを頼って引っ越すとか言っていたな。」
それが店の親父が知る全てだった。

桜がラ・パルフェ・タムールに来て数年たち、霞から桜のことを伝え聞くようになると、要はこの少女が別の意味で気になりだしていた。梶がトレーニングに参加したのを知った時、要は自分が思い出すのでさえ辛いこの男のしごきを弱音を吐かずに耐えている少女を思って胸が痛んだ。
自分の時は、誰も助けてはくれなかった。しかし、桜は俺が救えるかもしれない。
それ以来、要は何かと桜に目を配るようになっていた。それが単なる同情だったのか、恋だったのか、あるいは兄妹愛のようなものだったのか。それでも、要は桜にとって紛れもなく一時の安らぎになっていった。
そんなある日、ボスが、要を呼び出した。
「お前が桜を女にしろ。」
ボスの云うことは問答無用で絶対服従。それがこの店の掟だった。
要はただ
「はい」
とだけ答えた。





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