Nicotto Town


しだれ桜❧


刻の流れー66

情報室の秘書を一人連れ、田中はルポライターに関する新情報を伝えるべく部隊員の集まるジムへ自ら足を運んだ。

精鋭3名を直ちに神戸に送り込め、それまで指揮をとっていた情報部室長は部隊長罷免、斎藤が替わって指揮をとると田中は言った。
支配人直々の来訪に隊長の豊田はこの件に関する本部の並々ならぬ入れ込みを否応無しに感じるのだった。
豊田はジムで訓練をしていた隊員たちの中から2人を選び、名前を呼んだ。
「集合だ。 本田! 川崎!」
豊田は少し考えて
「鈴木、お前もだ。」
軍隊よろしく、3人の隊員がきびきびと整列すると、
「田中支配人から出動命令が出た。ターゲットの居所がわかった。」
豊田がきびきびと言う。そこで、隣に立っていた田中が口を開いた。
「わかっているとは思うが、今度こそねずみを逃がすな。」
整列した3人の隊員は何も言わない。全員前回の失敗でぴりぴりしているのだ。
「おまえ達には直ちに神戸に向かってもらう。」
田中の脇にいた秘書を振り返った。秘書が一歩進んで資料を豊田に渡す。豊田はそれに素早く目を通してから
「わかりました。すぐ出発させます。」
と、答えた。
田中が秘書と共にジムを後にすると、3人の隊員は隊列を組んで更衣室に向かった。メンバーはシャワーで汗を流して手早くスーツに着替え、装備を点検して装着する。
3人は一様に無言だが、中に一人特に表情の険しい男がいた。
それは豊田に最後に呼ばれた鈴木、高円寺でひろみを逃すという大ヘマを犯した男だ。
失敗に対して田中が決して寛大な人間で無い事は誰もが知っている。
前回失敗のの処分が情報部室長に留まり、彼に及ばなかったのは、彼が情報屋と佐竹の口を封じるのに成功したことを理由に豊田隊長が支店長に助命を嘆願したからである。
今度の出動であの雪辱を晴らさなければ次は無い。
「女め、俺をコケにしたことを後悔させてやる。」
拳銃をヒップホルダーに収める鈴木の目に怒りの炎が燃えていた。





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