Nicotto Town


どんぐりやボタンとか


キラとニクラの大冒険 第二章(5)

シュコピッポ大佐は執念で立ち上がると、猛スピードで走るかみつきの進行方向に、立ちふさがり、拳銃を構える。
この揺れる地面に立ち上がることが出来るのはシュコピッポ大佐一人だけだった。
そして、かみつきの眉間を狙って撃った。
シュコピッポ大佐は射撃の名手で、例え、揺れる船の上でも、どんな恐ろしい相手でも一度も外したことは無く、殺すときは一発で仕留めることが出来た。
しかし、弾はかみつきに当たらなかった。

シュコピッポ大佐は恐怖で身体が固まってしまっていた。
シュコピッポ大佐はこれまでさまざまな戦場で危険な目に合ってきた。
銃を突きつけられて殺されかけたことだってあったが、彼はどんな時でも身じろぎひとつせず、恐怖を感じずに全ての窮地を乗り越えてきた一流の軍人だった。
しかし、今、彼が感じているのははじめて味わうまぎれもなく本物の恐怖だった。
それは鋭い歯をむきだしにして突っ込んでくるかみつきに対してではなく、ハナ婆の目だった。
シュコピッポ大佐がかみつきの進む方向に立ちふさがって、ハナ婆の盲目の目とシュコピッポ大佐の目が合ったその瞬間、シュコピッポ大佐の胸の奥にある魂はハナ婆の大きな手でわしづかみにされていた。
そして、シュコピッポ大佐は頭の中ではっきりと、聞こえた。

おまえの魂を潰すぞ。

それは、殺されそうになるよりもずっと深く黒く絶対的な暴力だった。
ハナ婆はシュコピッポ大佐に手加減なしの暴力をほんの一瞬、ほんのちらりとだけ見せたのだった。

シュコピッポ大佐の撃った銃弾はかみつきの肩をかすめて、あらぬ方向へ飛んでいった。
かみつきは構うことなくスピードを落とさないでそのままシュコピッポ大佐を跳ね飛ばした。
キラの両親は地面に突っ伏したまま、あまりにも信じられない光景になすすべも無くただ呆然としていた。

ニクラとぱっぱっぷすとハナ婆を乗せたかみつきと、キラとセイゲンさんを乗せたポルコはそのまま町を走り抜けて、森の中へ走って行った。



。。。。




あのとき、警官に撃たれたぱっぱっぷすは、網の中で地面に転がったまま気を失っていた。
気がつくともうニクラとキラは男たちに連れ去られた後で、ポルコがぱっぱっぷすの顔を舐めていた。
朦朧とした頭の中で、ぱっぱっぷすはキラとニクラが男たちに連れ去られたことを理解した。
ぱっぱっぷすはすぐに立ち上がって、網から出ようとしたけど、肩に猛烈な痛みが走って思わず大声を出した。
それでもぱっぱっぷすは、根気強くナイフで針金入りの網を切って、抜け出した。
荷台から降りてポルコを見ると、ポルコは足から血を流していた。
男たちの仕掛けた罠にかかって転倒したときにケガをしたようだ。
ぱっぱっぷすは、荷台から網をどかして、バックパックからハナ婆にもらった薬を出した。ポルコの足を水で洗って、傷口を触って確かめると、幸い骨は折れてなくて切り傷だけのようだった。
ぱっぱっぷすは、ポルコの足の傷口に薬を塗って、布を巻きつけて包帯の代わりにした。それから自分の肩にも薬を塗り、布を巻きつけた。
バックパックに食べ物と薬を詰め込んで、荷台のすみっこで小さく丸まっているあめしらずをポケットに突っ込むと、弓矢とモリを担いですぐに出発した。
ポルコの手綱を持って走って行こうとすると、ポルコは立ち止まってぱっぱっぷすのケガをしてないほうの肩を頭で押した。
ポルコはぱっぱっぷすに自分に乗れ。と言っているのだ。
ぱっぱっぷすがポルコに乗ると、ポルコは一目散に駆け出した。

ポルコとぱっぱっぷすは急いでハナ婆の家へ行った。
ぱっぱっぷすはハナ婆に起こった出来事を話した。

なんてことだい!!!!すぐにニクラとキラを助けに行くよ!!!!!!!

ハナ婆はそう言って、どでかい刀を掴むと、家を出ようとした。
しかし、急に立ち止まって、ぱっぱっぷすを見た。

おまえ、妖精たちと仲間になったんだって?

ハナ婆は妖精と会ったことは無いけど、精霊と話をすることがある。ぱっぱっぷすたちが今どうしてるのかを聞いていたのだ。そのときに、精霊がハナ婆にぱっぱっぷすたちが7つの頭の蛇をやっつけて、妖精たちと仲間になった。という知らせを聞いたのだった。

ぱっぱっぷすが、そうだ。おれもニクラもキラもやつらとともだちになった。と答えると、ハナ婆はニヤリと笑って、そうかい。と言った。
ハナ婆は家からバルバルの木を降りると、口笛を吹いた。とても長く柔らかく美しい音色だった。
すると、少し離れたところに生えている背の高い木の上から、カサカサと音がして、精霊が現れた。
ぱっぱっぷすがニクラとキラとはじめて出会ったときに現れた緑色の2本足で立つ豚のような精霊と同じ種類の精霊だった。
ハナ婆は精霊の言葉で言った。

妖精たちに伝えておくれ。
ニクラとキラが危ないよ!!

精霊はそれを聞くと、すぐに身体の色を薄くして透明になって消えた。

それからハナ婆は、今度はブルブルと喉を震わせて大地を這うような低い音を鳴らした。
すると、ハナ婆の家が建っているバルバルの木の穴からのっそりと大きなかみつきが現れた。
ぱっぱっぷすは驚いて、肩から弓矢を下ろして素早く矢を引いて構えた。

やめな!!

ハナ婆に一喝されて、ぱっぱっぷすはハナ婆を見た。

そいつは最近できたわたしのともだちさ!!!

ハナ婆はそう言ってニッカリと笑った。
かみつきを手なづけるなんて聞いたこともなかったけど、たしかにそのかみつきはハナ婆の近くに行くと、ハナ婆に身体を擦り付けた。ハナ婆はかみつきの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、よーうしよし!!!と言って笑っていた。
ハナ婆も巨大でそのかみつきはもっと巨大なので、ハナ婆とかみつきがじゃれあっている様子は、まるで2頭の魔物が組み合って戦っているような迫力だった。

それからハナ婆はかみつきに乗り、ぱっぱっぷすはポルコに乗って出発した。

ふたりが町に着いたのは、ニクラの裁判が終わった2日後だった。
セイゲンさんが警察署で暴れた次の日だった。
ふたりは町の中へ行かず、森の中に隠れていた。
ぱっぱっぷすからセイゲンさんというニクラとキラのともだちがいるということを聞いたハナ婆は、セイゲンさんに宛てて手紙を書いた。
手紙には、ハナ婆とぱっぱっぷすが誰かということ、今のニクラとキラの状況を知らせて欲しいこと、そして、ニクラとキラを助け出すために協力したい。ということが書かれていた。
手紙は緑色の2本足で立つ豚のような精霊に届けてもらった。
セイゲンさんが警察から釈放されて家に帰ったすぐ後だった。

そのお昼にはすぐに緑の豚のような精霊がセイゲンさんから返事の手紙を届けてくれた。
手紙には、自分がふたりの友人であること、ニクラは有罪になって来週の火曜日に刑が執行されること、その刑は絞首刑の可能性が高いこと、キラは今病院に入院していること、そして最後に、貴女方の手助けに大変感謝致します。と書かれていた。

セイゲンさんは次の日、工場の親方たちが隣町の弁護士に会いに行ってるとき、一人でこっそりと森へ行って、ハナ婆とぱっぱっぷすに会った。
ニクラとキラを助け出すには、ふたりを誘拐するような非合法の手段しか無かった。
だから、セイゲンさんは親方たちを巻き込みたくなかったのだ。

セイゲンさんはハナ婆にニクラ救出の作戦を相談した。
ふたりは話し合って、その方法を決めた。




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