最期の夜月
- カテゴリ:自作小説
- 2025/05/05 03:47:02
第二十三章
彼はケチャップライスにシーチキンを入れ、水分を飛ばすかの様に炒めていた。ある程度パラつき始めたお米が出来上がり、一旦ケチャップライスを取り出した。その後、卵を炒めるのかと思いきや、卵に彼は昆布だしを入れ少し味見するように手の甲へと卵を少し垂らし、…「うん!」と自分の中で納得した味になったのだろう。卵を入れ、ふんわりと炒めた。私は…「凄いね、肇さん」と感心に変わっていく感情を伝えていた。…「そう…かな?」と照れ臭そうに笑っていた。…「うん、凄いと思うよ、私なりの考えだけどね」と伝えた。彼は相変わらず照れ臭そうに笑っていたが、ほんの少し、悲しげにも見える笑顔をしていた。…流石に昨日の今日か…苦しいだろうな…そう考え出した私は…「ねぇ?肇さん?…辛いときに無理して笑ったりしないでね?」と言葉にした。…「ありがとう…美月さん…もうどうでも良い事なんだけど、…やっぱり考えちゃうもんだね…」とやはり昨夜のダメージは大きかったらしく、彼の眼には涙が溜まり始めていた。…料理をしている時に話す事じゃなかったかな…と私は煙草に火を点け、彼を観察し始めた。…「泣きたいときは泣いちゃって良いからね」と私は彼へと伝えた。…「美月さんって何か…凄いよね…何て言うんだろう…とても大人と言うか…人の事を最優先してくれる人って言うか…ほんと、ありがとう」と彼は私へと伝えてくれた。…「全然、そんな事ないよ、ふふ…私は不出来な人間だから」と笑ってみせた。…「そんな事ないよ!美月さんって凄いんだから!」と強く言われてしまった。…「ありがとう、肇さん」と彼の言葉を素直に受け取りつつ、少しばかり恥ずかしくなってしまった私だ。…落ち着こう…と煙草の煙をゆっくりと吸い込み吐き出す。…煙草は私の心の安定剤の様な物だ…そんな事を考えている間に…「美月さん!オムライス出来た!」と楽しそうに、そしてほんの少しの悲しさを纏った笑顔で彼は笑う。…「おぉーすごぉい!美味しそう」と素直な言葉が出てくる私には昨夜から驚きでしかないのだが、…人を安心感へと誘う人なのだろう…と一旦考えが纏まった私だ。出来上がったオムライスは卵がトロトロでとても美味しそうだった。…「今日はシーチキンオムライスだから、醤油の方が合ってるのかも!」と彼は言っていた。…ほう、なるほど…と私は…「やっぱり肇さんって凄い!」と褒め称えた。…「そんな、そんな…」と謙遜する彼に対し、…「ほんと、凄いよ!」と畳みかける様に彼へと伝えた。…「シーチキンだからお醤油かぁ…確かにその方が合いそうだね」と彼へと伝え、醤油を取りにキッチンへと向かった。彼にも場所を把握して貰おうと、…「ね?肇さん、少し来てくれる?」と彼をキッチンへと呼び、…「ここに、お醤油…それと、お箸カトラリー系はここね?」と伝えた。…「うん!分かった!ありがとう、美月さん!」と少しばかり落ち着いたのか、笑顔がとても爽やかだった。…「さぁ、じゃあ肇さんお手製オムライス!頂こうか!」と声を掛け、彼もまた「美味しいよぉ」とお道化ながら言う柔らかい雰囲気の空間へとなっていった。二人して、テーブルへと向き合う様に座り、同じタイミングで「頂きます!」と手を合わせた。二人しての初めての食事を堪能することとなった。