2段 ある放課後に
- カテゴリ:自作小説
- 2025/05/12 20:11:02
私にはとても尊敬している先輩がいる。ここではK先輩と呼ぼう。中学校の吹奏楽部で一緒の先輩だ。パートも同じで 、フルートパートに所属されている。
最近、定期演奏会の脚本の仕事や幹部の手伝いで、なかなか私とお話しする機会がなかった。しかし、今日は脚本の仕事が途中で切り上げになったと言い、私たちの練習している教室に来てくださった。
しかし、楽器も何も持っていなかったので、結局練習はせず、ずっと雑談をしていた。
とはいえ、単なる雑談ではない。内容としては、脚本の出来具合や理想の配役を思うがままに語り、皆の笑いを呼んでいた。
この人がこの役になるといいな、とか、この人はこの役やらない方がいいな、という内容がほとんどだった。
その日の部活が終わった後、私は黒板の字を消そうとしたら、K先輩がかけ寄ってきて、「私やるから大丈夫だよ」と私に声をかけてくださった。
私はハッとした。本当に嬉しかったのだ。いつもお仕事で大変だというのに、わざわざ私に声をかけてくださったのだ。
でも私は、先輩のために、ずっとずっと恩返しをしたいと思っていた。だから、「ありがとうございます!……でも、やっておきます!」と返事をした。そして黒板を2人で消した。
久々に2人きりで何かできるのかと思うと、心の中がぶわっと熱くなった。
そして、2人だけで帰るときの階段を一緒に降りた。先輩は寝不足らしく、だいぶ疲れ果てていた。
私も寝不足だったので、共感できて嬉しかった。
そのとき突然、私に「おでこ触っていい?」と聞いてきた。私はぎょっとした。
K先輩の暖かい手が、私の心を包み込んだ。
これは、ある日の放課後の話である。