6段 K先輩、思い出して!——卒業式の舞台の約束
- カテゴリ:自作小説
- 2025/05/20 20:59:53
「私、ピッコロ、やりたいです!」
「それは・・・将来的に考えてのことですか?」
K先輩の声が重々しく広がる。
私は、今年の定期演奏会の曲の中で、何か一曲ピッコロパートに挑戦したいと考えていた。そして、今は、それを伝えようとしているところだ。しかし、K先輩は、まるで想定していなかったかのように、不機嫌そうに答えるばかりだ。
また練習してみたい。皆とは全然違う音を思いっきり出してみたい。また挑戦したい・・・。
ピッコロで定演に出たいという意思は伝わったが、私の心には、違和感が残った。あの冷たい雰囲気は何だったのだろう。
ここで、私がピッコロを担当しようと思ったきっかけについて聞いてほしい。
話は四カ月近く前に遡る。パートのみんなで卒業式に演奏する曲のパートの割り振りを考えていたところだった。その時、K先輩が、
「せっかくだからくじ引きで決めてみようか。」
と言い出した。私は驚愕した。くじの中には1stや2ndだけでなくピッコロパートも入っていたのだ。
ピッコロの経験がない私は、その場で固まってしまった。
そして、くじ引きが終わり、私はピッコロを担当することになってしまった。
先輩からもたくさん励まされたが、私の心の中には、焦りが残っていた。
それでも、堂々とした、K先輩のようなピッコロ奏者になるべく、たくさん練習した。練習した。練習した。練習した。
合奏に行くとき、失敗はたくさんしたが、たくさん吹いた。
わからないところは、いくらでも聞いた。
そして、K先輩は、いつも私に付き添ってくださった。
ついに本番三日前。その日は、本番会場である第一体育館での練習だった。
卒業式では、体育館上のギャラリーから演奏する。かなり狭く、移動が困難だ。
ここに問題があった。一曲目で「威風堂々」のピッコロをK先輩が演奏した後、二曲目以降のJ-POPの曲は私にピッコロ担当が変わるので、席を移動しなければならない。——でも場所が狭く、身動きがとれない――つまりピッコロ担当は一人に統一しなければならない――一番上手なK先輩にお任せするしか道がない――。
ということをK先輩から告げられた。
「ごめんね・・・。私も中2だから――必ず次の定演のとき、一曲ぐらいピッコロ吹かせてあげるからね・・・。」
このとき、私はまだ中1だった。涙ながらに了承した。
こうして、卒業式本番は、私はフルート2ndに戻され、ピッコロはK先輩が担当することとなった。
「必ず定演のとき――。」
あのとき、約束したのに。
あれから、ピッコロを吹くのを楽しみにしていたのに。
あの厳しい視線。いきなりどうしたんだというかのような、辛辣な口調。
忘れてしまったのですか――?あの約束。