筋トレを始めてから、一年が経った。
誰にも見せない儀式のように、毎日少しずつ体を動かしていた。
あれはきっと、時間に小さな杭を打つような行為だったんだと思う。
どこにも行けない感情の行き場を、少しずつ筋肉という形に変えていた。

懸垂は、自分の重さと向き合う行為だった。
空へ向かって引き上げる腕は、いつも言葉にならないものを抱えていた。
半年が過ぎて、ようやく5回、10回と数が積み上がる。
それは、回数というより「静かに積もった雪」のようなものだった。
誰も気づかなくても、確かに降り積もっていた。

副業も、はじめは土の中だった。
種を蒔いた感覚もないまま、それでも毎日、何かに水をやっていた。
あるとき、ふと芽が出ていた。
それは期待していたものとは違ったかもしれないけれど、たしかに「応答」だった。
世界は何も言わないけれど、ちゃんと聞いてくれてはいた。

ただ――
独りの寂しさだけは、どこにも行かなかった。
それは、夜になると部屋の隅に座っている猫のようで、
昼間の光の中では姿を消しても、
暗くなると、ちゃんと戻ってくる。
話しかけても返事はないけれど、そこにいることだけは伝わってくる。
もう、ずっと一緒にいる。

それでも、何かを「続ける」というのは、
その猫と共に、灯りをつけたり、湯を沸かしたりしながら、
今日という一日をつなぎ合わせていくことなんだと思う。

静かで、誰にも届かないようでいて、
実はちゃんと、自分の形を作っている日々。

今年の前半は、そういう時間だった。
そしてきっと、後半も同じように続いていく。
それで、いい。

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