仮想劇場『セミと僕と押し入れ世界』
- カテゴリ:自作小説
- 2025/07/30 10:19:48
まだ8月でもないのに外は35度をゆうに超えて猛り狂った猛暑で、お隣さんの室外機も悲鳴を上げそうな勢いでワシワシと回り散らかしている。うちはというと寒がりな同居人のおかげかまだまだ電気代を気にする必要はないようで、28度設定のままどうにかこうにかやり過ごせている。
いま、同居人といったが正確には彼女のほうが部屋主で、僕は勝手にいついた居候といった形だ。
10畳ほどのワンルームに僕専用のスペースはない。かろうじて空いた押し入れの一部に掻き分けるように身をねじ入れ僕は暮らしている。そうやって部屋の主権を握る彼女の生活サイクルに合わせて僕も日々を潜り滑らせているわけだが、やはりそこはそれ。どこか余所余所しい時間があったり唐突に沸き立つ感情を分け合ったりで当たり前というよりはあまりにも贅沢な今という時代を共有しているわけだ。
彼女は休むことなく生きることを信条にしている。立ち止まることを是としないその生活は電池が切れる寸前まで潔く明滅している。そういう僕のこれまでもそんな感じだった。立ち止まることができない。
「自然とのんびり生きられるってどんな感じなんだろう?」
僕が少しだけあけたカーテンの隙間から青天の街をのぞき込みボヤくと、彼女は反対側の隙間から同じように陽の光に胸元を照らされながらこう呟いた。
「そういうことは、そうできる人たちに任せておけばいいのでは?」
まあ、たしかにそうなのだが・・・。
他人がこちらに息苦しさを覚えるように、僕もあちら側には息苦しさを覚える。
いつものように浮かぶ疑問符を彼女の疑問符で包み込み僕はまた押し入れに戻った。
つづく・・・・たぶん