仮想劇場『セミと僕と大きなスイカと小さな風鈴』
- カテゴリ:自作小説
- 2025/08/05 15:08:26
夏休みといえばお祭りとプール。かき氷に焼きもろこし。
お盆の準備に右往左往する母。
給水塔の濃い影に隠れた彼女のお下げ髪に水滴ひとつ。
そしてやはり軒下で扇風機と肩並べて頬ばる真っ赤なスイカの美味い事。
首振りに合わせて上半身をかしげながらの種飛ばし。
今年の僕は一味違う。去年の記録をあっさりと塗り替える。
あご先から滴り落ちる汗粒が庭土に楕円形の集合体模様を描く。
食べこぼしたスイカのケッペンに大きなアリが登頂を試みる。
隣家のサクラの木にとまった一匹のアブラゼミ。ジリジリと腹を伸び縮みさせその存在をアピールしている。
うわん ーっ!
通りを散歩中の柴犬が突然に吠えた。アブラゼミはジジッと鳴き収めると天高く飛びさった。
そこでようやく一瞬の静寂。
やがて耳に残るのは扇風機の羽音と風になぜられた草木のさざめき。
そして軒下の物干しざおにつるされた風鈴の音、潔くも爽快にチリーンと一擲。
ああ、これこそが夏休み。
至福の季節。
つづく・・・・かも?