Nicotto Town ニコッとタウン

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凍土の聖域

足元で、微かな震えが雪を揺らした。
見捨てられたベンチの影、丸まっていたのは一匹の野良犬だ。
肋骨が浮き出るほど痩せ、氷のような風に、ただ命の灯火を差し出している。
俺は黙って、使い古したウールのマフラーを解いた。
高価な代物じゃないが、俺の体温だけはたっぷり吸い込んでいる。
「運がなかったな」
言葉を投げても、犬は怯えた瞳でこちらを見るだけだ。
それでいい。拒絶されることには慣れている。
震える背中に、体温の残る布をそっと被せる。
手負いの獣が、一瞬だけ俺の指に濡れた鼻先を触れさせた。
それは、どんな銃火器の反動よりも重く、鋭く、俺の胸を撃ち抜く。
守るべきものを持たないのが俺のタフネスだった。
だが、この小さな命の震えを無視できるほど、俺の心は強くできていない。
俺は自分の上着のボタンを外し、風除けになるよう、その隣に腰を下ろした。
雪は降り続く。
世界は相変わらず冷酷で、不条理に満ちているが、
俺たちの周りだけ、数センチの範囲で、小さな春が芽生えていた。

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