Nicotto Town ニコッとタウン

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〒郵便  配達されない手紙

死んだ女に手紙を書く。
そんな滑稽な儀式を、僕は今夜も律儀に繰り返している。
グラスの縁にこびりついた安酒の匂いと、
お前の好きだった、あの安っぽい石鹸の香りが混ざり合って、
吐き気がするほど、部屋は静かだ。
「拝啓」と書く。
それだけで、僕は自分の心臓を針で刺したような気分になる。
お前はもう、郵便受けのない場所へ行ってしまった。
天使が配達員を兼ねているならいいが、
あいにく、僕の知る神様は、ひどくズボラで冷淡だ。
僕は、生きているだけで恥ずかしい。
お前を救えなかったこの両手で、ペンを握っている。
お前を愛していると嘯(うそぶ)きながら、
空腹になれば飯を食い、眠くなれば泥のように眠る。
その卑屈な生命力が、僕を最も傷つける。
手紙の内容なんて、どうでもいい。
「寂しい」とか「死にたい」とか、
そんな手垢のついた言葉を並べて、
僕は僕自身の孤独に、酔い痴れているだけなのかもしれない。
お前が死んで、ようやく完成したこの悲劇を、
僕はたった一人で演じ続けている。
郵便ポストは、街角に口を開けた墓穴だ。
そこへこの手紙を投げ込めば、
僕の罪も、少しは軽くなるのだろうか。
いいや、ならない。
インクが滲むのは、涙のせいじゃない。
ただ、この部屋の湿度が、絶望的に高いだけだ。
マッチを擦る。
お前の名前が、青白い炎に舐めとられていく。
灰になった言葉は、風に吹かれて、
ドブ川の水面へ、音もなく沈んでいく。
お前は、幸せだったか。
そんな問いさえ、今となっては傲慢な暴力だ。
僕はただ、お前のいない朝が来るのを、
死んだような眼で、待ち続けるしかない。
さようなら。
届かない手紙の束は、僕の骨壷によく似ている。

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