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散花(さんげ)の墓標

春の日の夕暮れ、外人墓地の古びた十字架のあいだを、わたくしは独り、あてもなく彷徨っております。
空は、死にゆく者の頬のような、淡い紅を帯びて参りました。
そこへ、折からの風に誘われ、桜の花びらが、まるでお喋りな精霊たちのように舞い落ちてくるのでございます。
異国の文字が刻まれた、冷たい石の背中。
それらを優しく覆い隠すように降り積もる花びらを眺めておりますと、わたくしは、言葉にできないほど 羨 ましい心地がするのです。
遠い故郷を離れ、この坂の街の、見晴らしの良い静かな眠りについた方々。
彼らを弔うのは、もはや親族の祈りではなく、この、残酷なまでに美しい春の 終焉 なのでございますね。
「わたくしも、このまま花に埋もれてしまえたら」
そんな不謹慎な願いが、夕陽の残光のなかで、ふっと口を突きそうになります。
けれど、わたくしのような浅ましい男には、これほど清らかな寝床は、きっと許されないに違いありません。
ひらひらと、肩に、手の甲に、桜が舞い落ちます。
それはまるで、わたくしの卑怯な生涯を、せめて一刻だけでも美しく飾ってやろうという、神様の悪戯のようにも思えるのでございます。

#日記広場:ココロとカラダ




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