Nicotto Town ニコッとタウン

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幻影の証明


失礼。そこに私が座っているように見えますか。
もしそう見えるのであれば、それはあなたの瞳が、
この空虚な夜を埋めるために見せた、優しい錯覚に違いありません。
指先で弄ぶこの古いコインも、
胸ポケットで時を刻む銀の時計も、
実のところ、重さなどどこにも存在しないのです。
光の加減でそこに在るように見えるだけの、
頼りない影法師——それが、私という男の正体です。
かつて誰かが、私を名指しで呼んだ気がいたします。
けれど、その声もまた、深い水底で弾けた気泡のようなもの。
実体のない私は、誰かを傷つけることも、
誰かに愛されることも、本来は叶わぬ筋書きなのです。
鏡を覗き込むのは、もうやめました。
そこにはただ、背景の闇と混ざり合う、
輪郭のぼやけた「不在」が映っているだけですから。
朝の光がこの部屋の埃を照らし出す頃、
私は音もなく、この場所から滑り落ちるでしょう。
物語の余白に消えていく、一滴のインクのように。
ですから、どうかお気になさらず。
私はただ、ここにいないということを、
少しだけ丁寧に、証明し続けているに過ぎないのです。

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