六月の窓 5
- カテゴリ:小説/詩
- 2026/06/25 11:14:54
しとしとと降る六月の雨の音のすきまに
宿の古い柱時計が ただひとつ時を刻んでゐる
カチ、コチ、と さびしい規則正しさで
それは失はれた時間を 呼び戻すかのやうに
宿の古い柱時計が ただひとつ時を刻んでゐる
カチ、コチ、と さびしい規則正しさで
それは失はれた時間を 呼び戻すかのやうに
窓の外には エメラルドグリーンの湖水面
あわいパステル画の色彩が 静かににじみ
雲のきれまから ひそやかに架かる七色の虹
そのはかない美しさを 水底へ深く沈めながら
あわいパステル画の色彩が 静かににじみ
雲のきれまから ひそやかに架かる七色の虹
そのはかない美しさを 水底へ深く沈めながら
ひとつの孤影が 木立のオルガンの響きにのせて
濡れた草の径(みち)を あてもなく去ってゆく
ふりかへることもない そのうしろ姿
濡れた草の径(みち)を あてもなく去ってゆく
ふりかへることもない そのうしろ姿
時計の針が進むたび 虹はあわく消え去り
私はただ 窓辺で雨の歌をききながら
あの日去っていった 美しい面影を夢みてゐる
私はただ 窓辺で雨の歌をききながら
あの日去っていった 美しい面影を夢みてゐる
結びの散文
雨はまだ、あきらめたやうに降りつづいてゐる。窓のガラスを濡らすしづくのむかう、エメラルドグリーンの湖面に淡くひろがったパステル画の色彩は、いつの間にか夕暮れの灰色に溶け去らうとしてゐる。
さつきまで空のきれまに浮んでゐた七色の虹も、あのひそやかな孤影も、今はもうどこにも見出せない。ただ、古びた宿の暗がりに、柱時計の規則正しい足音だけが、まるで忘却を拒むかのようにカチ、コチと響きわたってゐる。
私はインクの乾きかけたノートを閉じ、そっと息をつく。すべては一篇の夢であって、あのひとが遠い木立のオルガンの音に誘はれて去っていったのも、私のこころが作り出した幻影にすぎなかったのかも知れない。それでも、雨の音にひたされたこの静寂のなかで、私はたしかに、失はれた美しい面影の、かすかな残り香にふれてゐたのだ。
窓の外は、しづかに夜の帳(とばり)が降りてゆく――。




























