Nicotto Town ニコッとタウン

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セーヌの哀歌

あわい葡萄色の夕暮が セーヌの川面を染めてゆく
春の嵐の名残りの風が 冷たく水を揺すぶるとき
僕は ただひとりの寂しい個影(かげ)となり
きみの来ない川辺の古本市(ブキニスト)の横にたたずむ
外套のポケットの奥 指先が触れる一通の未開封の手紙
きみが遺(のこ)した最後の言葉を 僕はまだ読むことができない
とほい街角から 風にのつて響いてくるオルガンの音は
あかるい寂しさを湛へた 僕たちのための鎮魂歌(レクイエム)
水面にひとつ、またひとつ ガス燈のあかりが滲むころ
きみの魂が あじさい色の闇の彼方へ流れてゆくのがみえる
「さようなら」さえ言へずに 引き裂かれたあの春の日に
時間は止まり ただ濁流のやうな絶望だけが僕を包む
せき止めてゐた熱い涙が とうとう溢れて頬を伝ひ落つれば
僕はただ 暮れなづむ岸辺に ひとり泣き崩れるばかり

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