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光の祈り(完結編)

I
思い出せば いまも涙が頬をつたふ
それは情けないからではなく ぼくの胸のなかに
母の生きた時間が 確かに息づいてゐるからだ
あの激しい風も 焼け野原の歌声も まだ終わつてはゐない
幼い母と妹を吹き飛ばした あの恐ろしい風の記憶
そして数日後 灰の街で飢えに震えながらも
気高く「お豆腐をください」とうたつた あの美しい親子の姿
それらはすべて 母が遺してくれた尊い遺言(ことば)
人間が人間でゐることの かなしみと気高さ
すべてを焼き尽くす戦火の底にあつても
失はれなかつた美しさを ぼくは母の語りから受け取つた
だからこそ ぼくはいまも静かに涙を流し
このがらんどうの空に向かつて あしたの平穏をこひ願ふ
二度とあのやうな哀しいうたが 世界に響かぬやうに
II
森の教会は消え 母も旅立たれたけれど
母から子へ 涙とともに手渡された祈りは
いまも消えることなく ここに光を放つてゐる
戦争のない世界を ただ誰もが平穏に生きられるあしたを
その願いは 崩れた聖堂の跡地に咲く一輪の花のやうに
ぼくの心のなかで いつまでも優しく 揺れつづけてゐる

#日記広場:小説/詩




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