Nicotto Town ニコッとタウン

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遠い想いで、雲仙の裾野にて


あたたかい南の国へゆこうと ぼくは決めて
海をわたる風のなかに たたずんでゐる
みあげる雲仙の なだらかな裾野には
もう秋の終わりの やさしい陽ざしが充ちて
信州の山々が するどく尖ってゐたのに
この国の嶺(みね)は なぜこんなに丸くおだやかでせう
まるでぼくの つかれきった心とからだを
そっと抱きしめてくれる 母の手のやうに
ランプの灯が しずかにまたたく異郷の宿で
ぼくは遠い北の窓辺の きみを想いおこす
そこではもう 冷たいみぞれが降ってゐるだらうか
ぼくの夢は この青い裾野のどこかへと
ひとすじの煙のように 消えてゆくけれど
それでもいいと 海の鳴る音をきいてゐる

この青い傾斜をのぼってゆく
橘の海をわたる あたたかい風のなか
ぼくはきみの名前を 何度も唇のなかで呟いてゐる
きみと過ごした あの短い夏の日々は
すべてがまぶしい まぼろしのやうだった
いま、ぼくの細い指先から こぼれ落ちてゆくのは
砂のやうに乾いた いくつかの言葉だけ
ねえ、きみは今でも あの古いピアノを弾いてゐるかい
それとも ぼくの忘れていったノートの余白に
冷たい雨のしづくを 落としてゐるのだらうか
ぼくの命が この山の裾野の霧に溶けるとも
きみの窓辺をひらく やさしい風のなかに
ぼくの歌は いつまでも生きてゐるだらう

#日記広場:小説/詩




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