Nicotto Town ニコッとタウン

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季節外れの宿にて

季節のすぎてしまった温泉地の
古びた宿の だれもゐない廊下
夜の闇は おどろくほどに深く
私の足音だけが ひそやかに消えてゆく
昼のざわめきは もうどこにもない
古びた障子の隙間から
あのかすかな硫黄の匂ひと
冷たい夜気(やき)が そつと忍び込んでくる
窓の外には ただ一箇(ひとつ)の夕月と
またたくことを忘れたやうな 微かな星
私はこの深い闇の底で
完璧な独りであることに 深く息をつく
おゝ 失はれた時間のやうなこの部屋で
寂しさは 私を優しく育む毛布のやうだ
だれも来ない だれも呼ばない
この静けさだけで 私はあんなに充たされてゐた

#日記広場:小説/詩




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