「契約の龍」(133)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/11/30 14:44:50
クリスにあてがわれている部屋は、他の王族の部屋と同じつくりの続き間になっている。廊下に続くドアが居間、そこからドアを隔てて続く部屋が寝室、というのも同じ。ただ、部屋の広さが違うだけだ。クリスの部屋は子供部屋仕様になっているのか、置いてある家具は少なく、その分、作りつけの収納スペースが多く取ってある。……にもかかわらず、部屋の中身はしまいきれなかったのであろうと思われる服でいっぱいだ。収納は、ドレスには対応していないらしい。
「…昨日言った「寝る場所が無い」というのは、冗談だったんだが……これは」
「寝るスペースくらいは、空けてある」
「それが、「横たわる事のできるだけの空間」という意味でなければいいんだけどな」
クリスが言うように、寝室の方は居間ほど散らかってはいなかった。…というよりも、散らかすだけの余地もない、というべきか。
「…これは…本当に、「着替えて、寝る」だけしかできない部屋なんだな」
「部屋数だけはいっぱいあるから…成長に従って、部屋を移っていくことになるんだろうな、ここでは。…けがや病気で療養が必要な時も」
子どもならば、四・五人は寝られそうなベッドとクローゼットでその部屋はいっぱいだった。暖炉の前には多少余裕があるが、それは、燃料になる薪を置くべきスペースが空いているからだ。
その大きなベッドにクリスを座らせようとしたが、しがみついたクリスが、離れようとしない。
「…どうした?」
「……今になって、怖くなってきた」
「…「龍」が、か?」
クリスからの返事は無い。
仕方がないので、クリスの隣に腰を下ろす。
クリスの肩を抱きしめ、背中を軽く叩く。
どれくらいそうしていただろうか。クリスが不意に顔を上げた。
「アレク。…その…「庭園」の事…黙ってて、ごめん」
「…いつからだ?」
クリスが俺の顔から視線を外し、記憶を探るかのように中空に視線をさまよわせる。
「…きっかけは…あの、図書館前の件、かな。…反撃に使った魔法が、思ったよりも強力で。それから、ハース大公のところで、「力」を分けてもらった時。…アレクの「力」って、学院内で感じる力に似てるなあ、って」
図書館前の件。…そんなに前から?
「…で、後期になってすぐ、書庫に入って、本人からそう聞いた」
「…本人?」
建物の中には干渉しない、って言ってなかったか?…いや、書庫の中は、正確には「建物の中」ではなかったか。
「うん…「庭園」自身。…ちょこっとだけ、母の話も聞いた。「庭園」を叱りつけたって」
「…は?叱りつけたぁ?」
「「あんたたちは過保護だ」って。よっぽど構われてたんだね、アレクって。…そういう自分だって、私のお守にポチ付けたうえに…「龍」と私との間に割り込んだせいで…自分の命を擦り減らして。…どっちが過保護なんだか」
クリスの声が湿り気を帯びる。
その顔を、両手でそっと挟んでこちらに向け、目を覗き込む。
「いいか?ソフィアは、確かに非凡な魔法使いだったかもしれない。でも、未来に起こる事を知る事ができた訳じゃないだろう?だから、「龍」の暴走は予測できなかった。だから、クリスを自分の手元に置くためには、あれがベストな選択だったのだと思う」
手のひらの間にある顔が、小さく頷く。
「…だから、彼女が亡くなったのは、クリスのせいでも、彼女が過保護だったせいでもない。誰の責任か、といえば、「龍」か、…もしくはその原因となった、あの火事を起こした奴だ」
「…そう…だね」
「「龍」が手強くて怖い、というなら、手伝うから」
クリスにそっと口づける。
「…そのつもりで行かせたんだろう?」
クリスの肩が、ぎくり、とこわばる。
「とっても困る、って、そういう意味だったんだろう?」
自分の言葉で、抑えつけていた黒い衝動があふれ出すのを自覚する。
クリスが「庭園」の事を隠していた事。
そしてそれをこのタイミングでそれを明かした事。
…昨夜の事さえ、何か計算ずくのように思われてくる。
「それは、違…」
言い募ろうとするクリスの口を塞ぐ。
そのまま後ろへ押し倒す。
衝動のままに唇を貪る。体を撫でまわす。肌に触れようとして、抵抗する衣服が裂ける音を耳にし、ようやく冷静になった。
クリスの体がぐったりと脱力している。
「…クリス…?」
体を起こして、辺りを見回す。
(…とっても困る、のは、アレクが道を開けてくれないと、クリストファーをどこかで落っことしてきてしまうかもしれなかったから。…「庭園の継承」は、期待してなかった訳じゃないけど…)
俺の右肩の上にたたずむ、半透明に透けたクリスがそうつぶやく。今まで見たどの時よりも、ずっとその存在感が希薄だが。
ココログの方は公開日時が指定できるんで、先の日付で書けてるとこまでアップしてあったんだけど、追いつかれちゃった。
手元にはさらに先まで書いたのがあるんだけど、最初のプロットの通りに動いてくれない人がいるので、どうしようかと。
ココログのほうが掲載が早い。。。
どうりで読んだことない話だと思いました^^;。