モンゴル語の近代語彙
- カテゴリ:日記
- 2010/01/09 18:54:25
アジア諸言語の中でも、モンゴル語はやや特殊な位置づけにあると思います。というのも、モンゴル語のように自前の言葉で近代的な科学技術が自由自在に記述できる言語は、実はとても稀な存在だからです。
もともとモンゴル語は派生語などが作りやすく、生産的な言語だということができます。日本語を例にすると、「はさむ」という動詞から「はさみ」という名詞を作ることができ、それをさらに「物をはさむ物」という意味から「物をはさんで切るもの」というように意味を拡張させることができます。残念ながら日本語の場合、こうしたことができる語はほんの一部ですが、モンゴル語ではこれと同じようなことがもっと気軽に行えるのです。
また、20世紀の始め頃、モンゴル語の雑誌や新聞が盛んに出版されたこともモンゴル語の語彙を豊かにするために一役買ってきました。政治、社会主義、会社などを表す単語はこのころ作られました。この時期に日本語から中国語に逆輸入された漢字熟語も数多くありますが、その一部を参考にした翻訳借用語も数多く作られています。つまり、概念と概念の組み合わせ方をまねしつつも、熟語を自分の言語に翻訳して取り入れられた単語です。
社会主義の時代には、術語委員会という組織が設けられ、近代的な概念をモンゴル語に置き換える作業を活発に行ってきました。この時代には数多くのロシア語-モンゴル語対訳の専門用語辞典、用語集が刊行されています。
こうした背景から、モンゴル語は実は高度に洗練された語彙体系を持っていて、どんなに抽象的で学術的な議論であってもモンゴル語で問題なく行うことができるのです。
しかしながら、市場経済に移行してからは、モンゴル語には英語の借用語が大量に入ってきました。特に最近までは存在しなかったような新しい概念は、そのまま英語で表されることも少なくありません。もちろんある程度の借用語が流入するのは、どんな言語にも起こりえることですが、今後こうした語が増え続ければせっかくのモンゴル語の体系が徐々に崩れていく恐れもあります。
これからは、最近まで存在しなかったような新しい概念をどうモンゴル語で表していくかということが課題かもしれません。それには、近代期に積極的に行ってきたような作業を再び行っていく必要があるでしょう。