Nicotto Town



逐艦を砲撃す

灅颏扦祥Lいポニーテールをした勇ましい雰囲気を放つこの艦の艦魂である夕立が軍刀を構えていた。頭に巻いている日の丸に《突撃上等》と書かれた鉢巻の余った部分が風もないのにハタハタと揺れる。
 そしてついに、敵艦隊が闇夜の中に薄っすらと見えてきた。
「よしッ! 照明弾発射ッ!」
 夕立の声と呼応して、『夕立』の十二?七cm砲が火を噴き、敵艦隊上空で炸裂。まばゆい光が辺りを包んでいた闇を消し飛ばし、敵艦隊が丸見えになった。その刹那、『夕立』は攻撃を開始した。
「大日本帝国海軍|白露(しらつゆ)型駆逐艦四番艦?駆逐艦『夕立』! 参るッ!」
 夕立はそう叫ぶと同時に軍刀を振った。
 駆逐艦『夕立』は敵艦隊の懐に入り込み、手当たり次第に敵艦に砲雷撃を開始した。

 ――駆逐艦『夕立』、敵艦隊に単身突撃。単艦で敵艦隊の深部に突入し魚雷を発射、見事に命中。その後も手当たり次第に砲雷撃を行い目覚しい働きを見せ、敵艦数隻に大ダメージを負わし、敵艦隊を大混乱に陥れた。そしてその後も孤軍奮闘で戦うが、敵艦隊の集中攻撃を受け、沈没した――

 『夕立』の突撃および撃沈の報の後、本隊はすぐに現地に着いた。
 前方にはいくつもの火柱が上がっているのが見えた。
 ――それは最後まで武人として戦い抜いた、夕立が残した繋がりであった。
 霧島は一人の英雄に向かって静かに敬礼すると、燃える敵艦隊をいつもの優しい表情ではなく、一人の軍人として睨みつける。
 挺身部隊は一気にその間合いを詰める。そして、
「照明弾発射!」
 戦艦『比叡』『霧島』の主砲が火を噴き、照明弾が天空を突き抜け、敵艦隊上空で炸裂。敵艦隊が闇の中からはっきりと現れた。
「よしッ! 左三〇方向の重巡らしきものに主砲三式弾発射!」
 岩渕が叫んだ刹那、『比叡』『霧島』の三五?六cm砲十六門が火を噴き、両艦それぞれが狙った敵艦に砲弾が命中。敵艦は一瞬にして炎上した。
 霧島は反撃してくる敵艦を睨み、そこに照準を合わせると、霧島の意思を感じたかのように第一、第二主砲が旋回し、火を噴く。敵艦は爆発、炎上した。
「夜戦は私達日本海軍の得意中の得意。絶対に負けない」
 霧島は握り拳をさらに強める。
 そして再び、『霧島』の主砲は何度目かの砲撃をした。

 一方、『霧島』の前方を走る『比叡』も主砲副砲を乱射し、敵艦を次々に破壊していった。
 比叡は闇夜に照明弾で照らされる敵艦を軍人の顔で睨みつける。
「敵には戦艦も空母もいない。どうやら巡洋艦部隊ね」
 比叡は安堵した。戦艦や空母がいればこちらが不利になってしまうが、巡洋艦部隊なら話は違う。逆にこちらが有利になれる。
 ふと海面を見ると、味方駆逐艦から射出された酸素魚雷が高速で闇の中に呑み込まれていった。刹那、敵艦数隻に水柱と火柱が上がった。
 戦闘は両軍の指揮系統が十分に機能していないのか敵味方入り乱れる大混戦となっていた。だが戦局は戦艦が二隻配置されている日本側に有利に進んでいた。すでに敵艦数隻が沈没または時期沈没という状況になっている。だからこそ、比叡に小さな油断があった。
 突如敵艦隊から数隻の駆逐艦が突っ込んで来た。
『敵駆逐艦! 右舷方向から本艦に向かって突撃して来ています!』
「主砲発射! 右舷副砲は各砲の判断でこれを砲撃せよ!」
 戦艦『比叡』艦長の西田(にしだ)正雄(まさお)大佐が命令する。
 『比叡』の全主砲と右舷側の単装副砲八基が唸り、敵駆逐艦を砲撃する。敵駆逐艦はそれを受け爆発、炎上し、うち一隻は一瞬にして轟沈した。しかし、敵残存駆逐艦数隻が諦めず、依然突撃をやめない。
『敵駆逐艦接近!』 
 見張り兵の声が艦橋に木霊(こだま)する。




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