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ごま塩ニシン


封印された遺書(4)

 悪い予感は当たるものである。1か月後、弟の宗則から母親宛に電話が入った。父の死後、家の名義は君岡と弟の宗則の連名になっていた。母親は権利放棄していた。従って、宗則は生まれた家の権利を二分の一だけ持っていた。宗則にしてみたら、自分の持ち分を現金で貰いたいと思っていて当然である。
 母は宗則がやっている事業が順調にいってくれさえすれば、いいのだがねと常に君岡の妻、妙子に言っていた。理由は宗則さえ事業で儲けてくれたら、家の権利放棄をしてくれるように言ってみるのだがと願望を語っていた。宗則は広告業の会社をやっていた。企業の販売促進企画をするのが仕事であった。創業した当初は、新商品のイメージアップの企画をしたり、商品販売のオマケの企画を考えるのが得意であった。ただ言えることは、企画にあたって相手先企業との接待が多いことであった。
 企画は一社だけではないから、販売部長に気に入られるためには派手な接待が付きまとった。もちろん、アイデアで勝負するのだが、ずば抜けたアイデアだけでは勝ち抜けない業界でもあった。つまり、経費倒れに終わって、勝負に買っても、赤字だったという企画もあったのである。また、オマケ商品の返品や依頼してきた会社の倒産に出合う場合もあって、利益を上げ続けることは相当な手腕がいった。
 宗則の性格もある。父親を早く失くしているから、母親に甘える面があった。広告業を始めた時も資金の大半は母親に依存していたが、この点に関して君岡も文句を言えた義理ではない。君岡も独立する際に母親から援助してもらっている。金額の多い少ないだけの差であるが、ある意味、父親の死後に入って来た保険金が目当てであった。宗則に対して大きなことは言えない。母親と宗則の間で、どのようなやり取りがあったのか、母親は詳しいことは言わなかった。君岡に対して心配せんでもいいとだけ言って、わしがなんとか納得させるというだけであった。
 君岡の妻、妙子は皮肉交じりにこう言った。
「裏でお母さんが弟さんに、どんなことをいっているのか分かりゃしないわ。お母さんの世話だけ、私たちに任せてさ。お母さんの誕生日に旅行にでもつれていくわけでなし。権利があると言って、自分だけの欲を押すだけじゃないの。」
「まあ、そういうなよ。お母さんは考えがあるといってるんだから。」




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