Nicotto Town



地図の片隅に②

「中川さん!すいません!この暑い中待たせてしまって」
「いえ、大丈夫ですよ」
抱えてきた黒板を汗でだらだらに濡らしながら秋人は中川と呼ばれた男に詫びる。この中川さんは発注者である鉄道会社の監督所の人だ。噂によるとすごいエリートで海外の大学で交通インフラの研究をしていた人らしい。
「さあ今日はどこですか?」
この暑い中待たせてしまったというのに文句の一つもない。本当に紳士な人だ。
「今日は8Jと9Jをお願いしようと思っています。」
「…福原さん寝てないんですか?顔色がよくないですよ」
「い、いえ風邪をひきましてね!たいしたことないですよ」
あわてて否定する秋人に中川はなにも言わなかった。

鉄筋検査の方は問題なく終わった。
しかしまさか鉄筋ではなく自分の顔色を指摘されてしまうなんて…。
中川と別れた後秋人は現場の休憩所で一息ついていた。
秋人はこの休憩所での一服が好きだった。近くの自販機でコーヒーを買うとベンチに腰を落ち着けて大きく息を吐いた。毎日くじけそうになっているが不思議とここで一服して気分を落ち着けるとまた頑張ろうという気になる。
ふと、視界に人影が写る。
少女だった。Tシャツに短パン、サンダルを履いている。
掘削が終わって躯体を作り始めている現場をじっと見つめている。
秋人はコーヒーを吹き出しそうになる。
「お、おい!危ないから入っちゃだめだよ」
「なんで?ここは大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないよ。ここは立ち入り禁止だよ」
しかし一体どこから入ったのだろう?現場の出入り口には施錠がしてあるかガードマンが立っている。
「ここには何ができるの?」
「とにかく外に出て。教えてあげるからさ」

仮囲いにある出入り口から出ると秋人は少女に向き直る。
「頼むからもう入らないでくれよ」
「で、何やってるの?」
秋人の注意には全く耳を貸さず訪ねてくる。
「線路の下に道路を作っているんだよ」
「なんでそんなことしてるの?」
「線路があると行きたくても向こう側に行けないでしょ。車に乗っている人や歩行者はここに道路ができれば向こう側にすぐ行くことができるよね」
「へー」
「それじゃ」
秋人はそれだけ言うと踵を返した。

アバター
2016/10/14 19:03
むむ、謎の少女の登場ですね。
今回も続きが楽しみ^^
アバター
2016/10/14 04:10
小説,面白いですね。
続きが楽しみです。
アバター
2016/10/14 00:27
成程、成程。
あかささんの言葉の意味を、理解してしまったよ。



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