変わる世界と変わらぬ自分(小説)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/10/06 05:24:21
やっぱり僕は僕だった。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから他の人になんてなれっこない。
最初から自分の道を行くしかないってこと。
今から少し未来。徹底した効率化を図った世界があった。時代は超管理型社会へと突入し、人間ですら画一化される世の中となった。
僕はサラリーマンだった。七三分けにメガネ、スーツをトレードマークに日々業務に邁進する。我々企業戦士は完璧な存在だった。一糸乱れぬその動きは、旧世代の軍隊すら凌駕するものだった。
我々の合言葉は「組織のために」。行動は常にチームで行い、単独行動が許されるのは一部の管理者層だけだった。
私生活は必要最低限だった。教育機関を卒業し、入社すると、住宅棟の一室を与えられ、AIによる徹底した健康管理がなされる。栄養バランスが整った食事に、適切な睡眠時間などすべて「組織のために」管理される。
家族はなかった。僕は物心ついた頃には教育機関に所属し、企業戦士になるための教育を受けた。
そう、なにもかも完璧だった。
あいつに出会うまでは…
当時会社では相棒制度が取り入れられており、昇進試験をパスした僕にも相棒がついた。
「お前、名前はなんていうんだ?」
それが第一声だった。
「コードネームなら、C04だ。」
僕は答える。
「そうじゃなくてさ、自分でつけた名前だよ。あっ、俺のことはマイスターと呼んでくれ。」
適当に入った喫茶店で、タバコを取り出しそう言ったそいつは女性だった。私服同然の格好に、ボサボサ無造作の茶髪、明らかに規則違反だった。
「まあいいや。それより飲みに行かないか?二人の出会いにかんぱーい!」
わははと笑いながらタバコに火をつける。
「P06。まだ業務時間だぞ。それに僕のバイタルはAIが管理している。外食はできない。」
「コードネームはやめろって。嫌いなんだ。つまらない奴だな…」
それから僕らは共に業務をこなした。
同然ながら毎日の様にぶつかった。
マニュアル通りの僕に、あくまで自分のやり方で勝負する彼女。
合うはずはなかったが、それでも僕らの部署は業績が伸びていった。
彼女の驚くべきところは、その営業力だった。
持っている情報量が圧倒的で、どんな人とでも会話が可能だった。特に相手の趣味に訴えかける話術を得意としており、娯楽を軽視するこの時代に貴重な存在と言えた。
彼女が仕事を取ってきて、僕が処理する。
そんなサイクルが出来上がっていた。
いつしか僕らは社内でも有名なコンビになっていた。口が裂けても言えなかったが、安心して背中を任せられる戦友だった。
何度か飲みにも行った。
「ワイン、デキャンタで!」
「おい、飲み過ぎだぞ。P06。」
「大丈夫だよ。俺は合成人間なんだ。通常の人間より、内臓機能が強化されている。」
合成人間とは、「進化した人間」をうたい文句に売り出された技術であり、iPS細胞を各細胞に分化させ、作り出された存在だった。
「Pシリーズはみんなそうだ。お前はCシリーズだったな。Cは何だったっけかな…」
「僕は遺伝子改良体だ。お前とにたようなもんだよ。」
試験管ベイビーには変わりなかった。
「お前、夢はあるか?」
「無論だ。組織をさらなる高みに導くこと。」
「違うよ…。自分の夢だよ。俺は自由になりたい。これじゃまるでオリに囚われてるみたいだ。」
「そうは言ってもな…。具体的になんか考えてるのか?」
僕にとってはこの社会が当たり前だったので、彼女が理解しがたかった。
「ああ。今に見てろ。」
その後、僕らの部署は独立し、本体の子会社化された。
そこまでは良くある話だが、ここからは僕も驚いた。
なんと、僕らの会社は海外のファンドに株式を買われ、その経営は本体の手を離れた。
後で聞いた話だが、やはり彼女が裏で暗躍していたらしい。仕事をする中で様々なコネクションを得た彼女は企業スパイのようなマネをしていたのだ。
その後、我が社は食品業界へ新規参入、農業から自社で手掛けるプライベートブランドを立ち上げた。
当時の大量生産方式を根底から覆す、かつての古式農法を復元し、効率はイマイチなもののどこか懐かしい味で顧客を得ることに成功した。
農家の朝は早い。
僕は4時にセットした時計のベルを止めると、家畜達にエサを与え、作物に水をまいた。
いつものルーチンをこなすと、僕は思い出す。かつてのマニュアル人間だった頃を。
やっぱり僕は僕だった。何も変わってないな。
そして変わってないのがもう一人いた。
「おはよう」
その声に僕は振り向く。
「また寝坊か。相変わらずの社長出勤ぶりだな」
「社長だからな。」
そして、僕らは笑いあった。
おわり
ちょうど今の時代、大量生産が見直され、工業製品が見直され、
手作りやスローフード、有機農法など、
本物の大切さが語られるようになってきていると思います。
戦ったり抑え込んだりせず、自然界と共存していく、
そのことによって人の心が育てられていく・・
その大切さが感じられる作品ですね。
相棒が女性ということで見やすかったです^^
あと途中から相棒のことを「彼女」と言っていたので、これは恋愛に進展するな!っとおもいました
中盤の最先端の背景に違い、後半の「農家」というオチにほっこりしました
こういうほっこりするオチをかけるのもうらやましいです