Nicotto Town



一流の流儀③(小説)

一つの技を極めし職人は、時として理論を超越する。

黄金比をご存知だろうか?

ユーグリットによって数学的に導かれた黄金比だが、それ以前の芸術品にもこの黄金比が用いられているという。

つまり太古の職人は、経験から黄金比を「識っていた」ということである…


それからと言うもの、私は時間を見つけてはバイトのシフトを入れるようにした。

一通りのことが出来るようになるころには、春になっていた。

心境の変化が伝わったのだろう。
就活でもやっと内定が出た。

小さな商社だったが、コンビニの商品も扱っているということだったので、ここで頑張ろうと決意した。

卒論を終わらせると、あとはもうバイトに打ち込むだけだった。

渡辺さんは相変わらずの仕事ぶりだった。私は必死にその背中を追いかけたが、まだまだ先は長かった。

「全てをこなそうとしてもだめだ。【選択と集中】。これが大事だ。要は得意技を身につけること。」

見かねた渡辺さんが言った。

「君は商社に行くんだったな。よし発注をやってみてくれ。卒業までにマーケティングのセンスを磨くんだ。」

それから私は発注を担当したが、最初はダメダメだった。廃棄を沢山出してしまったり、逆に店から商品が無くなる状況を作ってしまったり。ちょうどいい塩梅というのが難しかった。

「市場は、需要と供給のバランスで成り立っている。我々は需要を予測し、供給を行う。前にも言ったがなんとなくではだめだ。様々データから統計的アプローチを仕掛けるんだ。」

渡辺さんはそう言った。それは私の卒論よりはるかに高度なアドバイスだった。

夏がくる頃のはなしだった。

つづく

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2017/10/08 22:07
建築様式や美術で扱われることの多い黄金比。
実は音楽の作品にも隠されています。
フレーズの山や曲のクライマックスの配分が、それにあたるそうです。

勉強も仕事も、分析や時間配分は、大切な要素ですね。
音楽やスポーツの修練も、実はなんとなくの無い世界。
意志や心があってこそ、目標に近づけると思います。
共通のものを感じました。



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