一流の流儀④(小説)
- カテゴリ:自作小説
- 2017/10/09 07:43:05
超一流のアスリートのみが到達できる領域がある。
ZONE(超集中状態)と呼ばれる領域だ。
ここでは全てが止まって見えるという…
渡辺さんの集中力は驚異だった。
今もレジ点検を行なっているが、鬼気迫るものを感じる。
それでいて周りにも気を配れるものだから本当にすごい。
どこにでもいる、今時の若者という感じだが、制服に袖を通したとたん、一気に頼れる先輩へと豹変する。
私は、仕事を夜勤の渡辺さんに引き継ぐと、着替えて店の一角にある休憩所を陣取った。
夕勤の時は、こうして渡辺さんの仕事ぶりを眺めながら、廃棄の夕食をいただくのが日課になっていた。
日付けが変わろうとしていた頃に、渡辺さんが休憩所へひょっこり顔を出した。
「ケーキ食べる?」
「ケーキですか?」
「ああ。今度クリスマス用のケーキの予約が始まるんだけど、試作品を本社が送ってくれたんだ。」
「へぇ〜。じゃあ渡辺さんも一緒に食べましょうよ!」
「そうだな…。少し落ち着いたし、ちょっと休憩するかな。」
こうして、バックヤードで、二人きりのクリスマスパーティーを開催した。
「サラダと唐揚げも用意してみた。廃棄だけど…」
「おお。なんか豪華にみえますね。」
ケーキに立てたロウソクに火をつけ、電気を消す。
「わぁ〜!なんかそれっぽい!」
「「メリークリスマス!」」
お茶で乾杯し、二人でロウソクの火を消す。
「渡辺さんは何か夢とかあるんですか?やっぱりバンドとか劇団とかやってたりするんですか?」
「そうだなぁ。いずれは自分の店を持ちたいな。収支管理や部下のマネジメントもやってみたい。」
「うん!できるよ!渡辺さんなら!」
その日、私は夜が明けるまで渡辺さんの仕事ぶりを眺めていた。
店を出た時の朝日がどこか心地よかった。
つづく
周りの空気の中での自分の位置(在り方)を、掌握することなのかもしれませんね。