Nicotto Town


まったり時間。


【お話】ワルツを、夜明けまで。

ここは幻想の森。夜が明けるまで、立場や身分は関係がないわ。踊っていただける?

もらったステキコーデ♪:32


何を驚いていらっしゃるの?

ここは幻想の森。人の世の理の届かぬ場所。

妖精も魔法も、おとぎばなしだと思っていた?

でもここはあって、わたくしもあなたも、今、ここにいるわ。

そう、でも、わずかな間だけよ。

この森がここにあるのは。

森も、魔法も、永遠だけれど、

人の世には、もう、見えなくなってしまったの。

昔ながらの祭りや、物語を語る人々の、

夢の火花が集まって、ひとときだけ、こうして現れるの。

今夜は満月で、その意味ではタイミングが良かったのね。

夜明けの光がさせば、ここは消えてしまうわ。

そうして、わたくしたちも、

ここがあったということを、忘れてしまうのでしょうね。

それが人の世の決まり。それが人の世の在り方。

けれど、

いま、このひとときは、立場も身分も関係がないわ。

そうして忘れてしまったとしても、この夢は、どこかで人を支えてくれると、わたくしは思うのよ。

手をとっていただける?

踊りましょう。昔のように。

明日になれば。あなたもわたくしも、人の世の決まりに従って、お別れになるわ。

明日になれば。あなたは王女の教育係として王国に残り、わたくしは和平の使者として、長年の敵国に嫁ぐわ。

後悔はないわ。不満もない。これがわたくしの役目ですもの。

でも今は。今だけは。あなたと踊りたいの。昔のように。

踊りましょう。ここは幻想の森。妖精の魔法にかけられた、

それだけのひととき。子どものように笑って、なんのうれいもなく。

くるくる回って、夜明けまで。



* * *


踊っていただける? このひとことを言うのって、その背景にいろんなドラマがあったりする。

幻想の森と妖精の魔法が本当にあったのか、

ただ単に、王女のわがままを一瞬でもかなえてやりたいと願った人々の演出にすぎなかったのかは、謎のままで。

旅立っていった王女の心の支えになったのであれば、それは、確かに魔法だった。そういうことで良いと思う。

実はこの国の王族には、妖精の加護がある、との言い伝えがひそかにあって、

準備したはずの召使や下働きの者たちが、取りそろえた覚えのない花や音楽に驚いていたとしても。夢の美しさには変わりはない。

静かに、ひそやかに。そのままで。









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