Nicotto Town



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そして先程まで黙っていた蝶乱が口を開く。「それは残念ですね。交渉決裂です」
誰かとまで聞かず、蝶乱は残念そうな顔をした。そしてドレスから包丁を取り出すと、
「今日の晩ご飯は人です。構いませんか?」と雁と氷に確認する。
二人が笑顔で頷くと、蝶乱は一番近くの離鳴に向かって包丁を投げた。
その隙に雁は眠たそうに出てきた部屋に戻っていく。氷は平然としたままその光景を見つめた。
包丁は離鳴の太股を掠めたが、離鳴はバク転しソファーの後ろに移動したため、直撃は免れた。
しかし蝶乱はすぐに違う包丁を取り出すと追い打ちをかけるように離鳴に投げつける。
離鳴は何とか横に飛んで回避。包丁はソファーに突き刺さった。氷はそれを嘲笑うかのように眺める。
蝶乱の行動が止まった隙に契とアノがいるところまで移動した。
「本当にここに姐さんがいるのか」蝶乱の行動に警戒しながら契は訊ねた。
氷はお茶を一口頂くと、「どうやろなあ」と冷酷な眼差しを向けた。
蝶乱は更に裾から包丁を取り出すと、離鳴に向かって跳んだ。「この家を自分で調べたらどうですか」
蝶乱はなんとか逃げた契とアノを横目に離鳴を捕まえる。離鳴の両手を片手で掴み、包丁は首筋で停止させる。
離鳴は助けを求めるが、命が懸かるとなれば迂闊に近づけない。絶望の表情を向け、小刻みに震えている。
それを見ていた氷は蝶乱の元に近づくと、「こいつもリエド・リディクローズと一緒にしますか?」と訊ねる。
蝶乱はつまらなさそうに離鳴を見つめると、離鳴をソファーに投げつける。離鳴に鈍い衝撃が走る。
が、素早く立ち上がり逃げようとすると、その手を氷が掴んだ。「好きにしていいですよ」
蝶乱は冷酷な目で離鳴を見下す。氷は頭を何度も下げてお礼を言うと、離鳴を奥の部屋へ連れて行く。
そのとき、「待て!」契が怒りに奮えたたせた声で氷を止めた。「用でもあるんか」
氷は契を鋭い目で見る。それだけで立っているのも限界だ。しかし契は引き下がらなかった。
「離鳴、あれをやれ」契は防衛のためのタナトス召喚を促す。離鳴はそれに従い頷くと、氷の手を振り解いた。
氷は怒りを露わにはせず、離鳴を目で追った。「タナトス!」離鳴は大きく叫び声をあげた。
相変わらず、目の前が真っ黒になる。「なんやと」氷が驚きの表情を浮かべた。
それまで冷静だった蝶乱も呆気にとられ、背筋に寒気がする。初めてタナトスを目にした者誰もが同じような状態に陥る。
今までのどんな状況においても平常心を保ってきた蝶乱は目を丸くして怯える。
どうして自分がこのような状態なのか、全く理解ができないからだ。足は竦んで動けず、身体の震えが止まらない。
「何故このような貧弱な少女がタナトスなんかを召喚できる!」蝶乱は嘆いた。
微かに男の声が聞こえる。「離鳴ほど強い心を持った女は姐さん以外にはいないぜ」
蝶乱はその微かな声が契のものだということはすぐに気付き、怒りに震えた。
「なんですって…?」噛み殺されそうなタナトスの深い牙を見ながら呟く。
氷が非難のために蝶乱に手を貸すが、蝶乱はそれを振り払った。「貴女は逃げても構いませんよ」
挑発するような口調で氷に問いかける。氷はその言葉が不服らしく、眉をひそめた。
「私は、やります」氷が覚悟を決め蝶乱の後ろにつく。蝶乱も満足そうに笑みを浮かべるとタナトスを鋭い目で見た。
離鳴はそれを確認し、タナトスに命を下そうとしたが、雁に寄って遮られた。
「お前さあ」雁が離鳴を見下すように言う。「こっちには人質がいるってことを忘れるな」
タナトスを見ても一切動じない、凛とした口調。「大丈夫ですか、蝶乱サマ」嘲笑うように蝶乱を一瞥すると再び部屋に戻っていった。
「…だそうです」体制を立て直した蝶乱は離鳴を見やった。人質となると迂闊に動けないため離鳴は命をださすに黙った。
それを見ていたタナトスは離鳴の側に寄る。「六柱両方いきますか?」氷が蝶乱の様子を伺う。
蝶乱は眉一つ動かさず、アノを一瞥する。アノは契の横で作戦を練っている最中だった。




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