Nicotto Town


小説日記。


†白の霊柩処刑騎士――

#-プロローグ


 ――どうせ、お前なんて使い物にならないガラクタ―ジャンク―なんだよ。

 違う。

 ――どうした?早くしろ。

 離せ。

 ――泣いてるのか?薄汚いどぶねずみでも涙は出るんだな!

 俺は――

 ――あぁ?何だその目は。お望みならばもっとジャンクにしてやるぞ、小僧。

 俺…は――




                 そして暗闇の底から、また目覚める。


「…いい朝だな、スワン」
 俺の気分は晴れなかったが。
『ジャック…、顔色悪い…?』
「気のせいさ」
 過去は捨てたんだ。



 濃密な霧の立ち込める白かばの林の中でそんな会話が聴こえる。
 見るもの全ての心を一瞬で奪うほど美しい毛並みを持つ白馬に、それに跨る青年の。
 
 闇を溶かしたかのように光を反射しない、前下がりの漆黒の髪。
 馬上に居ても引き摺るほど長い漆黒のマフラーとマント。
 ふてぶてしい笑みを刻む口許に、黄色い瞳。
 その片方は長い前髪に隠れ見えない。
 そんな全身黒ずくめの姿の中、頭に飾られた純白のミニハットが異質だった。
「それより、大丈夫か?スワン」
 あれからどの位歩いたのだろう?
 スワンと呼ばれた白馬が、不思議なことに、大丈夫だとでも言うように小さく嘶いた。
「そろそろ着いてもいい頃なんだけどな…」
 出発前に見てきた地図によれば、もう着いてもおかしくないハズだ。
 どこまでも広がる陰鬱な霧の空を見上げ、青年は溜息を吐いた。
「それとも、俺にマヤカシでも効くと思ってるのか?あいつらは。
   馬鹿だなぁ、スワン」
 ひひひっ、と湿った声音で笑う。
 白馬も同じように馬鹿にしたように軽く嘶く。
 すると――、青年を取り巻く気配が、一瞬にして変わった。
 氷のように冷たく、凍てついたものに…――。
 漆黒の羽根が散った。
 青年の背中から。
 カラスのように真っ黒な、“青年の背中から生えた双翼から”―――。
 青年の突き出した右手に一枚の羽根が舞い落ちた。
 ぶわっ、と淡い闇の光がその手の中で弾けた。
 青年の手に握られる、闇の光をぬらぬらと反射する華奢な剣。
「行くぞ、スワン!」
 明るく弾む青年の声とともに、白馬が前足を上げ甲高く啼いた。
 青年が剣を虚空へ投げつけた。
 駆け出す白馬。
 くるくると綺麗な弧を描きながら、やがて剣はスパッ―!と“何か”を切り裂き、木の葉が覆う地面に突き立った。
 縦に2メートル近く裂けた“空間”――、その隙間から覗く、“賑やかな街の景色”。
 既に青年と白馬は、その隙間へと吸い込まれていた。

 不気味なほどの静寂に取り残される、たくさんの漆黒の羽根。
 空間の隙間と剣は、何時の間にか消えていた――。






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