Nicotto Town


小説日記。


紅蓮狐姉妹のお茶会。【3】




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 戦慄。

 「……え?」
 
 言葉が出なかった。
  発するべき言の葉は決まっていたのに、驚き、そして恐怖に掻き消された。
  本来ならば起こるはずのない事。
  だがいつだって、常識から逸脱した現象は起こるものだ。 

「そう。残念だけれど」

  ――彼女はもうこの世の者ではない。
  
 ……古くから妖怪に化かされる人間は絶えない。
  それは現代でも然り、行方不明者や原因のわからない事件の大半は、妖に攫われて二度とは戻ってこない者たちのこと。
  無論害のない妖も居るだろう。
  だが、そんな彼らに善意ばかりがあるわけではない。
  彼らは弱った人間を漬け込み、力を貸してやるふりをして絶望の淵に立ったその瞬間の魂を狙う。西洋で言う悪魔伝説とそう変わりはない。
  そして今回もその例に漏れないとするならば、少女はもう。

 「手遅れね」
 「そんな……!」

  だが実際その通りだ。
  少女はもう戻れない。穢れきった魂は今にも燃え尽きて、少女をたぶらかした妖に喰われてしまうだろう。
  ならば最初から、彼女は少女を救う気など無かった……?

 「でもね翳籠、勘違いしないで頂戴。私はあの子に妖として生きる気はないかって訊きに来ただけよ。――誰だって、独りは怖いでしょう?」
 「っ……、」
 「……貴女は優しいわね、翳籠」

  ――狡い人だ。
  そうやって都合のいい時だけ善人ぶる。
  でも、だから好きになった。
  いつだって救世主を気取る彼女に、自分は惹かれた。
  残酷で非道な彼女は、誰よりも慈悲深く、こうして何千年経とうとも気高いまま。
  だと言うのに、自分は。
  いつだって己の無力さを嘆くばかりで弱い自分から変わろうともしないで。
 
「そこで見ていて。まぁ、交渉に応じてくれたらの話だけどね」

 そう言って姉は笑うと少女に歩み寄った。
 陽はすっかり沈んでしまった。
 人気の無い路地裏に、電光掲示板の眩しすぎる光は届かない。
 数えるほどしか見えない星。
 線のように細い三日月。
 頼りない街頭に照らされた二つの女子高生の影は、ゆらゆらと異形の耳と尾を長くアスファルトに落とした。
 
「こんばんは、お嬢さん」

 少女の目前で立ち止まる。今まで丸きり無反応だった少女が、のそりと顔をあげた。
 人形のように白い肌に整った顔立ち。
 サイドの髪は顎のあたりで揃えられ、後ろ髪は腰くらいにまで届きそうだ。
 傷んだ、赤茶けた色をした髪だった。
 そしてハイライトの消えた瞳はどこまでも黒く、その途端、忘れていた戦慄を思い出す。身体の芯から凍えそうなほどの妖気に震えが走った。
 少女から噴き出した真っ黒な邪気があっという間に路地裏を呑み込んだのが見える。
 だが意外にも、その黒い瞳に宿っていたのは理性。

 「こんな素敵な宵の入りに独りでお散歩かしら」

  まともにモノを考えられる状態ではないから彼女がこんな判断をしたのだろうと思っていたのに、違ったようだ。
  彼女の目的がわからない。

 『……やっと来たんだ』

  くぐもった少女の声が呆れたように答える。
  妖糾はさも愉快そうにくつくつと笑った。

 「ごめんなさいね。どんな格好で来ればいいのかわからなくて」
 『……女子高生って顔じゃないと思うけど』
 「良いじゃない、ちゃんと来てあげたんだもの」

  昔からの知り合いか、友人であるかのような気だるい会話。
  黒い邪気は蜃気楼のように少女の姿を霞ませているのに、会話は続いた。

 『似合ってない』
 「あら、翳籠に言って頂戴。選んだのはあの子よ」
 『……へぇ』

  からかうように振り向いた妖糾の視線を辿って向けられた少女の目と、目が合う。
  足元が揺れた気がした。
  同時に全てを見透かされたような不安を感じて思わず目をそらした。
  少女はクスリと笑う。
  妖糾は張り付けたような無機質な笑みで、言った。

 「さぁ、お話はもういい?悪いけれど――時間切れよ」

  時間切れ。
  少女は特に動じる様子もなく頷いて、返答をよこした。

 『そのことなんだけどさ――もう少しだけ、良いかな』

  その手には、いつの間にか。
  纏う闇さえ払いのけそうなほどに激しく燃え上がる、紅蓮の炎で作られた刀が握られている。
  すると妖糾は意外そうな、つまらなそうな、そのくせ楽しそうな、可笑しな顔をした。

 「ふぅん。貴女って案外往生際が悪いのね」
 『うん。ごめん。――でも、あんたを殺せば、みんなを生き返らせることくらい、造作もない――!』
 「……聞き分けの悪い子は嫌いよ」

  駆けだした少女に、妖糾は嗤った。
  けれども彼女が声を出さずにこう呟いたのを、見逃さなかった。

 ――そうやってまた、貴女は同じことを言うのね



*****

三度目の正直。
打ち間違えてバックスペースを連打したら、途中まで書いては書き直していた小説が三度も消えました。
わたし涙目。


良かったらコメくだしあ!
それでは。

アバター
2013/10/13 13:15
>鈴たん

ヒャッハー!鈴たんからのコメ久々ー!!!!

うん(ノД`)・゜・。
気を付ける……ありがとね!


そう言ってもらえると嬉しいです!
わかたー!!この件が終わったらまた日常編に戻れるから出させてもらうね!
サークルでも目を見開いて待ってるからね<><>


頑張ります……!!励みになりました!
アバター
2013/10/13 10:34
>流ちゃん

ふおお、ありがとう……!!
一応JKなので髪も黒で化けてるみたいですよ!
それ私得でもある_(_^_)_


翳籠はマメだからなめこ好きそうwww
怪訝な顔をして、それでも嫌って言えないんですねわかります!(
やっぱ似るんだよねキャラって(((


あ、わっかりました!!
やっぱりちゃんと書かないと駄目だね……気合いいれてきます!
ありがとう(ノД`)・゜・。


ああ……うん……えへ(抜け殻)
アバター
2013/10/13 04:18
三度までお疲れ様ですた…!(´;ω;`)
思い出した時に、小まめなコピーをお勧めいたします…!


姉妹小説大好きですん!!!!♡
サークルも始まってwktk二倍!(頃合いを見計らって入ります♡)
もし機会があれば、鈴舞ちゃんやら他私のキャラはお好きに出して下さい…(小声)

続きを毎日楽しみに待ってます!ガチでっ!
アバター
2013/10/13 03:17
はい、全部読んで来ましたよ!
うわーい、女子高生服妖怪糾ちゃんとか俺得~!
尻尾はかくしているみたいだけど耳と尻尾もセットで想像して萌え悶えてた。

スマホの使い方教えてあげたくなるねw そしていらないアプリとか沢山入れてあげたくなるよね←
そしてちょっと迷惑な顔されたいよね!((
ちょこっと思考が妖怪の方の流風さんと似通ったニコタの流風さんでした。

ちょこっとあれなんですが
お茶会メンバー以外はどのキャラがどう話しているとかわかりにくいかもしれませぬ!
それ以外は糾ちゃんの文の作り方大好きだよ!!

あと・・・よく挫折しなかったね(優しい視線)



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