Nicotto Town


小説日記。


天使の黒い羽根 【短編】




「――――行かないで」

 お願いだから、ひとりにしないで




 ぽたり、ぽたりと滴る血が、真っ赤な絨毯に溶ける。
 耳障りな呼吸音が自分のものだと気付いたとき、目の前で血を流す少女が、〝彼女〟であることを思い出すのだ。


「コゼット、今日も雨なの」

 遮光カーテンに遮られた大窓から、薄明かりが漏れ出していた。曇った空の色、灰色の光。
 ふかふかのベッドに寝そべって頬杖を突く。
 話しかけた〝コゼット〟は、いつも何も答えてくれない。

「お母さまが、外に出ちゃダメって言うの」

 脱色したように真白い髪を揺らして、どうして、と首を傾げた。
 やはり、〝彼女〟は答えてくれなかった。


 母は厳しい人だった。
 吸血鬼と、烏の血の混じった私は、一歩たりと外へ出ることを許されなかった。
 温かいベッドに、美味しいお菓子。
 いつもは優しい母と、従順なメイドたち。
 〝コゼット〟だけが、友達だった。

「コゼット、お母さまは、どうして怒るの」

 父が帰ってくる日、母は私に冷たく当たった。
 父は私に優しくしてくれた。
 母は、それが気に入らなかった。

「コゼット、お母さまは、どうしてぼくを打つの」

 母は私を打った。
 私を激しく罵倒して、動かなくなるまで蹴った。

「コゼット、お母さまは、どうして泣いてるの」

 けれどそれが終わると、母は泣き崩れた。
 気の済むまで降り注ぐ暴力の時間は、ひと時の嵐なのだ。
 優しく抱きしめて、母は私に謝罪した。

 それが、愛情なのだと思った。

「コゼット、今日はお母さまが、クッキーを焼いてくださったの」

 父が家を空ける日、母は機嫌が良かった。
 けれども外にだけは、絶対に出してはくれなかった。
 明るい陽の光を目にすることも、外の空気を吸うことも、母は許してくれなかった。
 それで良いのだと思っていた。
 母に愛されるために、必要なことだと思っていた。
 母に愛され続けるために、私は従順な子供で居ることを誓った。
 毎日、真っ黒な遮光カーテンを見て育った。
 母もメイドたちも皆、真っ黒な服を着ていた。
 ただひとり、私だけが真っ白だった。

「コゼット、どうしてぼくは、外に出ちゃいけないの」

 本当は知っていた。
 外に出てはいけない理由を、母は絶対に話してくれなかったけれど。

 この手が血に染まったとき、何故かとても落ち着いていた。

 真っ黒な剣に、真っ黒な羽根。
 大きな翼を生やした殺人鬼が、鏡に映っていた。
 口許に歪んだ笑みを浮かべ、返り血を浴びた吸血鬼が、ようやく目を覚ましたのだった。

「コゼット、お母さまは、どうして居なくなっちゃったの」

 母が泣くのは父のせいだと思った。
 だから父を殺した。
 なのに母は姿を消した。
 メイドたちも、次々と姿を消していった。

「コゼット、ぼくは、ひとりぼっちなの」

 いけないことをしたのだと気付けなかった。
 誰も私を叱ってくれなかった。
 優しかった母は、それきり私を見捨てた。
 父に愛される私を憎んでいた母は、私を愛してなどいなかったのだ。

「コゼット、どこにも行かないでね」

 〝彼女〟だけが友達だった。
 母の呪縛から逃れた私が、ひとりぼっちの屋敷からようやく外に出た日、意外と、明るい日差しの下を歩けたことに驚いた。
 目が開けていられないほど眩しくて、陽の光を浴びたことのない肌が焼けるように痛かったけれど、歩けないことはなかった。
 母がどうして外に出てはいけないと言ったのか、分かったような、分からなかったような気がした。


 ある日出逢った少女を仲間にした。
 ザックリと切り裂いた手首から滴る血を飲ませ、ひとりぼっちでなくなる魔法をかけた。
 そして、初めて他人の血を吸った。
 真っ黒で、大きな羽が、あの日のように生えてきた。
 古ぼけた〝コゼット〟を連れて、その翼で少女を屋敷に攫った。
 温かいココアと、母が昔よく焼いてくれたクッキーを出した。
 
 何も言わない〝コゼット〟の代わりに、〝彼女〟が私の心の穴を埋めてくれた。
 ぽっかりと空いた穴に今まで詰まっていたのは、母からの愛情だったのだと分かった。
 私の心の半分を、〝彼女〟が占領した。
 母が私を外に出してくれなかった理由が、ようやく理解出来た。

 私は〝彼女〟を打った。
 外に出るのを許さなくなった。


「セシリー、私は」


「可笑しいですか」



*****

セシリーちゃんと逢ったばっかりの頃(ショタの頃 12、3歳)。
マルファスはどうしようもないクソDV男だっていう話がしたかった。



交流企画【不思議の国†アリス】より

続かない

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2015/11/13 23:30
>流ちゃん

愛情っていうのは恋愛感情とはまた違うタイプのだけど、そうなんです初めての人(意味深)なんです(´^ω^`)
いま普通に屋敷の外に出してやってるのは、まあ年取って少し落ち着いた感じww

単純にマルファス母が寂しいだろうからってプレゼントしただけの人形だったんだけど、マルファス母以前の入手経路はまた別にあるっていう……コゼット絡みの話はもうちっとだけ続くんじゃ!
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2015/11/13 21:32
なんと、セシたんマル様の初めての人(意味深)かい
オネショタうまうまです(^ω^)

お人形さんいろんなところにでてくるねー
なんかもうわかんねぇや、お人形が悪者に見えてきた



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