Nicotto Town


小説日記。


一人ぼっちのカラス 【短編】


――――置いていかないで

 カラスの子は泣いた。
 けれどその声を、誰も聞いてはいないのだ。




 通り過ぎる人の波が、道路に横たわる襤褸切れのような何かを時折踏みつけていった。グシャグシャになった黒い羽に、たくさんの足跡が付いていた。
 動かない塊は人の形をしていた。事切れたように横たわり、何をされても起き上がることは無かった。
 もはや身ぐるみ剥がされても、持っているものなんて何も無かった。
 冷たい石畳が体温を容赦なく奪っていく。霞む視界に映るのは、くすんだ街の景色だけだった。

 ――――ミシェル?

 ふと目を覚ます。
 そこは薄汚れた道路ではなくて、庭にあるお茶会の席だった。突っ伏して眠ってしまったようだ。
 いつものように〝彼女〟が紅茶を淹れてくれた。
 色褪せたフィルムのように現実味のない暖かさに、それでも心を溶かしてしまう。

 愚かなのだ、どうしようもなく。
 哀れなのだ、死んでしまいそうなほど。

 自分自身を可愛そうだと呪いたくなるほど、この世界を恨んでいる。

 ――――ミシェル、

 〝少女〟は自分を見て、不思議な顔をしている。
 自分よりも幼い顔立ちをした小さな女の子は、自分の知っている主と同じで、違う。

「ご存知ありませんか?ミシェル、ミシェル=バスティードです……」

 どうしようもなく声が震えた。
 〝あの人〟は受け入れられたみたいだけれど、私は違う。

 諦めきれない、
 諦められない、
 私を忘れないで、
 私を置いていかないで。

「初めまして」

 と、心と記憶に蓋をすることが、私には出来なかった。

 レベッカは変わってしまった。
 前はあんなによく笑う子だったのに、今は機械みたいにつまらない顔をしている。
 ただ命令だけをこなして生きていて、空っぽの目をしている。
 その目が本当は何を見ているのか、知りたくなんて無かった。
 知ったところで、私は彼女に同情できるほど優しい人間になれるだろうか?

 ――無理だよ。
 自分のことで精一杯なんだから。

 ――――ミシェル。

 また目を覚ます。
 真っ暗な部屋の中に、〝彼女〟の面影は無かった。
 何もない、空っぽの部屋。
 クローゼットを覗いた。主の居なくなった洋服たちが、虚しくハンガーに吊るされている。
 炭になった暖炉の薪は、触れようとすると崩れてしまった。
 開け放たれた窓から差し込む月明かりが、見惚れるほど真っ赤だった。

 まだ目蓋の裏に焼き付いている光景が、夢を見るたび苦しめようとする。

 痛くて、
 怖くて、
 血が、いっぱい出て。

 口が裂けた、耳まで切れるほど。

「…………ごめ、なさ、い……」

 イヴ様。

 伸ばした手が届かなかった。
 羽ばたけないほど傷ついた翼が、ぐっしょりと血の海に浸っていた。
 喉が詰まる。
 上手く喋れない。
 涙が出た。
 悲しかった?
 違う
 悔しかった。

 貴女の傍に居るのに相応しいほど、私は強くなんて無いから。

 いっそ、あのまま、


 貴女のために死ねれば良かった。



 ――――よく頑張ったわね、ミシェル。


「イヴさま、っイヴさま、」

 わたし、頑張った
 ずっと、貴女の傍に居たかった
 ごめんなさい、
 ごめんなさい、守れなくて、ごめんなさい
 
「こわか、った、」

 寂しかった
 一人にしないで

「もう、置いてか、ないで……っ!」

 ――ガタン!

 と騒々しい音で目が覚める。
 身体が痛い。頬がびっしょり濡れていた。
 さっきと変わらない、真っ暗な部屋に倒れていた。
 居眠りしたソファから転がり落ちて、かつての主人の幻覚を見て泣くなんて。

「あぁ……っあ……」

 あの庭に行けば、〝彼女〟はまた笑ってくれるのだろう。
 でも、違う。
 〝彼女〟はもう居ない。

「あああぁあぁああああああああぁぁあ!!!!!!!」

 テーブルを蹴り飛ばし、床に拳を叩きつける。
 喉が裂けるほど叫んでも、きっとどこにも届きやしない。
 とめどなく溢れ出る涙と洟水が、醜い傷跡を隠すマスクを濡らしている。
 床に散らばったワイングラスの破片に、白い月光が反射した。
 おもむろに手を突いて起き上がった、テーブルに置いてあったペーパーナイフを衝動のままに振り上げて――――グッ、と止まる。

 手が、動かなかった。

 まるで見えない壁に遮られたように、硬直した自分の手が動かない。
 ぽたぽたと銀のナイフに落ちる雫。
 誰にも見せられないような顔で泣きじゃくる、大嫌いな自分が映っている。
 まだ、この心臓は動いている。
 こんな思いをしてまで生きたいと願っている馬鹿な脳みそが、自殺すらさせてくれない。

 ああ、こんなロマンティックでない死に方、きっとこの世界は許してくれない。

 キン、と床に落ちたペーパーナイフがソファーの下に潜り込む。
 むせ返るほど嗚咽が漏れた。
 膝を抱えて声を殺しても、堪えきれない喘ぎが喉の奥から零れ落ちる。

 ねえ、私だけなの。

 どうして、私なの。

 奪ってよ、みんなみたいに。


 こんなに辛い思いをするなら、もう何もいらない。




*****


オリチャ企画⇒【不思議の国†アリス 2】


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2016/01/31 23:05
>流ちゃん

レベッカ「✌(˘ω˘ ✌ )三✌(˘ω˘ )✌三( ✌˘ω˘ )✌」
うっうっ;;;;;;;つらい;;;;;
それなあああ!!あと、思い出さないでいてくれたほうが、アダム的にも幸せかなあ、という……

ゲスの心……( ˘ω˘ )
ひどい;;;;;;;;;;;でも好き;;;;;;;;;;
くっそカント君ぐうかわwwwww大好きwwwwww意外と高身長なのもツボ、嫌われ役が最高に好き……
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2016/01/31 22:26
忘れっぽいねー、いえーいおそろ
今のイヴさま何をがんばったのかがまずわかってないから褒められない…、つらっ
でも、イヴさまもしかしたら忘れていた方が両方幸せかもというジレンマ

読んでても善意の心で胸がきゅってして、ゲスの心でとっても楽しかったですよ、ウフフ
置いていくの楽しいです
あと先に意地悪したのはこっちなので! もうとことんいいや~なキャラにしようかと!
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2016/01/31 22:18
>流ちゃん

使いたかったんだコレ!!!!あと10番目だったんですね!!!!

もうミシェルには完璧な不憫キャラになっていただくしかないですね(ゲス顔)
あと忘れっぽさで言ったらレベッカもだから!!あの子なんにも覚えてないから!!
いや、今のイヴ様も好きなんだけど、頑張ったねって認めて欲しいっていうのがあるからもだもだしてるんだ……

うふふ書いててめっちゃ楽しかった♥♥
置いてかれるポジ大好き;;;;;つらいけど;;;;;

あとカント君足踏んでごめんね!!!!wwwwww
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2016/01/31 21:59
いえーい!!!不思議の国のアリスルール第10条(テキトー)!!
住人の死は”ドラマチック”なモノでなくてはならない!! すばらしいね!

イヴ様がわすれっぽくてごめんなさい!
そうだよね、そうだよね
私だってイヴちゃん周りの子達と話しているとなんだかとっても切ない気分になってくるもの
その中でもナンバーワン不憫なミシェルちゃんは一番切ないよね! ヨッ不憫!(ドドンッ
ミシェルちゃんにとっての主は完全体イヴ様であって劣化イヴ様ではないのですよね…

置いていってごめんなさい
守らせてあげられなくってごめんなさいぃいい
そして思い出してあげられなくてごめんね、これは話の都合上仕方がないんだ(; ^ω^)
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2016/01/31 21:47
>灯塔さん

ワアアアアアコメントありがとうございます。゚(゚ ˆωˆ ゚)゚。ヒエエ;;;;;;;;;;
イヴ様大好きだったから、豆腐メンタルがグシャグシャなのです……
無理して「初めまして」を演じる側って辛いけど美味しいですよね;;;;;;;;
うううありがとうございますすごく嬉しいです。゚(゚ ˆωˆ ゚)゚。
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2016/01/31 21:30
あああああああ! 凄く好きです! 好きです!
何と言うかとてもごろごろもだもだしましたミシェルさん可愛らしい……。
記憶を失った側も好きですが、覚えていて尚置いて行かれた側と言うのも素敵だなと思います好きです素敵。とても素敵でした! ありがとうございます!
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